出発

 依頼を受けることになってから一晩を挟み、約束通りわたしは早朝の西の門へと足を運んだ。


「あ、ノアー!」


 門の前には先に来たユリアスが待っており、アミとゲルデンはまだのようだった。


 ユリアスはわたしを見つけたからか、腕を天に向かって真っ直ぐと伸ばし、左右にブンブンと振っている。


「おはようユリアス。早いね。わたしは起きたばっかりでまだ眠いや」


 わたしはそう言うと、「ふわぁ」とひとつ欠伸をする。


「うん、おはよう…」


 それに釣られたのか、ユリアスの口からもも大きな欠伸が漏れた。


 ユリアスはぱっと口を手で覆った。


「僕まで釣られたじゃないか……」


「ユリアスも眠いんだー」


 わたしがケラケラと笑っていると、2人分の足音と共にわたし達の名前を呼ぶ声がする。


「ノアちゃーん! ユリアスー! おはよー!」


「若いってすげぇな。こんな朝早くから起きれてよ……」


「何言ってるのゲルデン。あなたまだおっさんって歳じゃないじゃない。私と違って」


 アミは最後の一言だけ、いつもよりも低い声で呟いた。


 その声を間近で聞いたゲルデンの顔には力が入り、その頬はたぶん引き攣っている。


「お、おはようございます。アミさん、ゲルデンさん」


 2人のどこか張り詰めた空気に、ユリアスは明るい声色で挨拶をする。


「おはようユリアス」


「お、おう……はよ……」


 アミは先程のことが嘘のようにコロッと声色が変わり、高めな声で挨拶を返す。


 一方、ゲルデンはまだ先程のことが頭にこびりついているのか、少し声が固くなっていた。


 今回の依頼場所は、西方向に広がる森である。


 そこまでは少し距離があるので、少し早めに集まったというわけだった。


 これからその盗賊団の元へ向かい、全ての盗賊を殲滅する。


 それがこれからの予定だ。


「それでは行きましょう」


 ユリアスの言葉を合図とし、わたし達は目的地の森に接する道に出るため門を潜る。


 そこは背の低い雑草が広がっていて、歩きやすいよう道は地面になっていた。


 草が広がるところでは、風が通り草が揺れる静かな音が聞こえる。


 そんなどこにでもある普通の道を、雑談を口にしながら歩いた。


 しばらく歩いていると、森が近くなってきたのか、道の脇にところどころ背の高い草が生えているようになった。


 そして、"何か"が近づいてきていることに気づく。


「なにか来るよ」


「は? 何言ってるんだ、そんなもの見え…」


 わたしの言葉にゲルデンが疑いの声を上げるが、それはわたし達のすぐ側にまで来ていた。


「グルァッ」


「――っ!?」


 その"何か"はゲルデンを襲い、彼は瞬時に背の斧で攻撃を防ぐ。


 そして、その姿を見たユリアスがその正体の名を口にした。


「なっ……グリーンタイガー!?」


 "何か"の正体は、緑色の体に黒い特有の模様を持つ魔物――グリーンタイガーだった。


 グリーンタイガーは攻撃を惜しくも防がれたため、わたし達と一旦距離を取る。


「グルルルルル」


 グリーンタイガーは、ギラギラとこちらに殺気を放っている。


 その殺気に、ユリアスは思わず一歩後ずさる。


「油断するなよ。こいつは魔石がDランクだからDランク魔物として扱われているが、それはパーティで討伐する際の基準とも言われているからな」


 ゲルデンはそう口にすると、距離を取るグリーンタイガーに向かって駆け出す。


「さっきは不意打ちありがとなぁ! お前ら魔物は正々堂々、正面から来いやぁぁッ!!」


 怒声とも思える声を上げながら、ゲルデンは自慢の斧を振り下ろす。


 それと同時に、アミが一本の短剣を手に走り出していた。


 ゲルデンが振り下ろした斧に、グリーンタイガーは横へ飛び回避する。


 しかし避けきれなかったのか、グリーンタイガーの片足あたりからは血がダラダラと流れ、血の匂いが漂う。


 それに追い打ちをかける形で、アミも短剣を振るう。


 傷に気がいっていたグリーンタイガーは避けることができず、腹部あたりに傷が刻まれた。


 そのことに激怒したのか、グリーンタイガーは雄叫びを上げ2人に突っ込む。


「グルラァァアアアアアアアアアッ!!」


「なっ」


「きゃっ!?」


 その勢いに驚いてしまった2人は反応が遅れ、その鋭い爪は2人を引き裂かんとする。


「ガアァ!?」


 爪が届く手前の一瞬、グリーンタイガーが2人に伸ばす足が弾かれたのだ。


 ――ユリアスの剣によって。


「た、助かったぞユリアスッ!」


 ゲルデンが声をかけるが、ユリアスはそれを気にした様子もなくグリーンタイガーを追撃する。


 攻撃を弾かれたことに動揺したグリーンタイガーはまたも距離を取るが、ユリアスはそれを許さず接近した。


 ユリアスは下から剣を斜めに振り上げ、グリーンタイガーの胸を切り裂く。


「グッ…ガァァアアアアアアッ!!」


「ぐふっ…!」


 その痛みを紛らわすように振られた腕に、ユリアスは直撃してしまう。


 ふっ飛ばされたユリアスはよろけながらも立ち上がり、グリーンタイガーに殺気を送る。


 しかし、グリーンタイガーはその殺気を気にする様子もなくユリアスに一歩一歩近づく。


「うっ……くっ…………」


 そんなグリーンタイガーの後ろで、アミが短剣を投擲。それは見事グリーンタイガーに命中した。


「グルゥッ」


「やった、当たり!」


 しかし大したダメージにならなかったのか、一瞬そちらに振り向きまたもユリアスの方へと歩き出す。


「さっさとくたばれクソ猫がぁぁあああッ」


 そこへ斧を振りかぶったゲルデンが走ってきて、その斧を凄い速さで振り下ろす。


「ガアッ……」


 ゴウンと音が響く斧はグリーンタイガーの首を跳ね飛ばし、グリーンタイガーはそのまま絶命したのだった。

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