行動計画
「まずこの依頼の目的であるリベルについてですね」
いつの間にかユリアスが司会役となっていたが、誰も反論する人もいないためこの形で話し合いが進むことになるのだろう。
「現状わかっていることは、リベルは近くの森に潜んでいるということ」
「ターゲットは主に商人の馬車で、奴隷商とも繋がりがあるかもしれねぇな」
「あとは10組もの冒険者パーティーが挑んだものの、未だ数人しか帰ってきてないということも聞きました」
リベルについてはわたしはよく知らないので、3人の話し合いを静かに見ていた。
そんなわたしに、ユリアスが突然話を振る。
「ノアは何か知ってることとかない?」
「何も。そのリベルっていう盗賊団は強いの?」
「「「はぁ!?」」」
わたしの言葉に3人同時に驚きの声を上げ、ゲルデンは興奮冷めきらない様子で言葉を続ける。
「強くない訳ないだろぉ!? そいつらが強いからこうやってたかが盗賊団1つに、高い報酬額設定して討伐隊が組まれてるんだからよ!」
「たしかに1人銀貨5枚は高いですよね。銀貨10枚が平民の年収と言われているので」
「そのお金があれば、情報ギルドから情報、買える?」
「情報の価値によるだろうけど、1つなら買えるんじゃないかな」
リベルについて、耳にすることはたまにあった。
だが、気にもしていなかったわたしはいつも聞き流していた。
この依頼を受けたのも周りの冒険者が話していた、情報ギルドからフェルの情報を得るためである。
フェルのことをいろんな人に訪ねたのだが、誰も知る人はいなかった。それは勿論、ユリアスも知らなかった。
そこでわたしは、情報を専門に扱う人に聞けば知っているのではと考えたのだ。
しかし、情報ギルドから情報を得るにはお金が必要らしい。しかしわたしには、宿代と食事代で消えてしまう分しか持っていない。
わたしにとって手っ取り早く稼ぐには、この依頼はうってつけだったのだ。
「そういえば、ノアちゃんはどこから来たの? その目も珍しいし、こんなに綺麗な子なら貴族って言われても信じちゃうわぁ」
ユリアス達と一緒に驚いていたアミは、いつの間にか落ち着いた様子で穏やかな声色で訊いてきた。
しかし、少し刺さるようなその視線は声とは正反対に思える。
そんなアミに、わたしは特に気にすることなく答えた。
どうでもいいか、と思ったからだ。
「【モルス神殿】ってところでフェルと暮らしてたの」
「【モルス神殿】?」
アミの言葉に頷き、更に補足する。
「【プレウス森林】っていうすっごーく大きな森の中にある1つの神殿のことだよ」
わたしは森の大きさを表すため、大きく腕を広げた。
すると急に、途中から黙っていたゲルデンが口を開いた。
「元の話から脱線してるぞ。今は依頼に向けて今後の動き方を話し合ってたんだろ」
「「「はっ」」」
ゲルデンの言葉に、わたし達3人は元題を思い出し、改めて真剣に話し始めた。
「では今回の依頼でやることは、盗賊団リベルの討伐、できたら拠点を発見すること、拠点でもし誘拐などをされた生存者がいたら保護すること。この3つですかね」
「そうね」
「そして相手は強いので、油断せずに臨むこと」
「当たり前だ」
「場所は近くの森。たぶん【デビリス草原】の奥にある名もない森でしょう」
「これで大体決まった?」
ユリアスはわたしの言葉に頷く。
「本当ならもう少し早く話し合いは終わったんだろうけど話が脱線しちゃってたし、明日の早朝に西の門集合ってかんじになるかな。お二人はそれでいいですか?」
「ああ、戦闘力とか細かい部分は明日でもいいだろう」
「私もいいわよー」
話し合いが終わり、皆解散という雰囲気が流れる中ゲルデンが手を上げる。
「ユリアスとアミは残れ。ノアは帰っていい」
「なんで?」
「いいから帰れ」
わたしは疑問に思いながらも、言われた通り渋々部屋を出ていった。
わたしは特に盗み聞きなどはしようとせず、3人の残る部屋を気にしながらも素直に宿へと帰った。
ノアが出ていった部屋で、アミが不満気な様子でゲルデンに訊く。
「なんでノアちゃんだけ帰したのよ」
「あいつのことを知るためだ」
「はぁ? 知るためならノアちゃんがいた方がわかること多いでしょう」
アミの言うことにユリアスも頷いた。
だが、ゲルデンは首を横に振る。
「いたら都合が悪いんだよ。で、ユリアス。お前はノアと知り合いだったよな」
ゲルデンが突然鋭い視線を向けるので、ユリアスはビクリと肩を震わす。
「あいつ――ノアは何者だ?」
「はい?」
ゲルデンの訳のわからない言葉に、ユリアスは思わず気の抜けた声が出る。
「最初にあいつ見たときは、ただのガキだと思ったんだよ。しかもEランク冒険者。この依頼には足手まといだと思ったんだ」
ゲルデンはそう言うと、元々強面な顔を更に険しくする。
「少し威嚇すれば辞めると思って睨んだんだ。一瞬気づいたらしいんだが、辞める気配がなくてな。だから更に敵意を見せたら、急に背筋がゾッとしたんだよ」
「寒気ですか?」
「ああ。本能で命の危険を感じたときのような感覚だった」
そう話すゲルデンの顔は青ざめており、嘘を言っているようには見えない。
「すみません、僕にもよくわからなくて。一度だけ会っただけの仲なので」
「そうか」
ゲルデンの眉間によったしわはなくなることはなく、そのまま3人は解散したのだった。
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