盗賊の討伐依頼
ユリアスと出会ってから1週間が過ぎた頃、わたしはいつも通り冒険者ギルドを訪れていた。
あの時ユリアスとは、食べながら話した後、ユリアスが「明日朝早くに用事がある」ということで早めに別れた。
冒険者ギルドは相変わらず活気に満ちていて、依頼掲示板や受付カウンターに人が集まっていたり、昼から酒を飲んでいる人もする。
そんな騒がしい建物内で、突然扉を勢いよく開く音と受付嬢の慌てたような声が響き渡った。
「リベルの討伐隊を組むことが決まりました。誰か参加してくれる方はいませんか?」
急なことに、あんなに騒いでいた冒険者達はしんと静まり返る。
だが何人かの冒険者が話しだしたことをきっかけに、その声は更に広がっていった。
「リベルってあの盗賊団のことだよな」
「討伐隊組むって今更じゃね?」
「たしかに」
「でも決定してたとしてもさ、それに参加する奴がいるかは別だよな」
「今までいろんなパーティーが向かったらしいよ」
「それ数人くらいしか帰ってきてないって聞いたぞ」
「あのリベルだし、報酬はいいんだろうが……」
「命あってこそだしなぁ」
「まあ、少なくとも俺は受けねぇよ」
周りがざわざわと話す中、名乗り出る人は誰もいない。
わたしも興味も何も無いため、聞き流そうとした。しかし、そんなわたしの耳にある会話が届いた。
「あの《情報ギルド》から情報を買えるだけの大金が貰えるかもな」
「最高機密の情報まで揃ってるっていうあの……?」
「あそこの情報収集力は世界でも突出してるからな。金がかかっちまうのは仕方ない」
情報収集……そこならフェルの手がかりも見つかるかもしれない。
でも、その情報を手に入れるには大金が必要らしい。
ならその大金はどうするか?
わたしはざわつく冒険者達をかき分け、未だに同じ場所で佇んでいる受付嬢の元へ向かった。
「――その依頼、受ける」
「受けてくれるんですか!?」
受付嬢はそう口にすると、「こちらです」とスタスタと歩いていってしまった。
わたしは周りの視線を全く気にせず、先に行った受付嬢の後を追った。
「こちらの部屋でお待ちいただけますか?」
「うん、わかった」
わたしが通された部屋はある程度広さがあり、低い机とそれを囲むように並ぶイスがある部屋だった。
目が視えないので細かいところまではわからない。
だが冒険者が集まる先程の場所にある、あの木の椅子よりもここにあるフカフカなイスの方が座り心地が良かった。
わたしはそのフカフカなイスの1つでぐでーっとしていると、不意に部屋のドアが開けられた。
聞き覚えのある声。その声がわたしの名を呼んだ。
「え…ノア? なんでここに……」
「この声は……ユリアス?」
受付嬢に連れられ部屋にやってきたのは、一週間ぶりに会うユリアスだった。
しかし、受付嬢に連れられてきたのは1人ではなかった。
「えっ美少女! 可愛い!」
「こんな美少女がなんでこんな依頼受けてんだよ」
ユリアスの他に入って来たのは、女にしては少し声が低い女性と、声が低めの男性だった。
女性は急にわたしに抱きついてきて、頬をスリスリと当ててくる。
男性の方はというと、わたしを不躾にジロジロと見てくる。
この空気に耐えられなくなったのか、ユリアスは突然手をパチンと叩き話し始めた。
「とっ、取り敢えず自己紹介をしましょうか。僕はCランク冒険者のユリアス、剣士です」
「あたしも同じくCランク冒険者で、短剣使い。名前はアミよ。よろしくね」
「……Bランク冒険者のゲルデン。斧使いだ」
「Eランク冒険者のノアだよ。えーっと、長剣を使ってる」
わたしが自己紹介を終えた途端、男は突っかかる。
「Eランク冒険者なんて下から2番目の雑魚じゃねぇか。足手まといになる前に帰れガキがっ」
男は吐き捨てるように言うと、睨むようにこちらを一瞥して黙ってしまった。
何だろうこの人。わたしなにか悪いこと言ったかな。
わたしが先程の自分の言葉を思い返していると、ユリアスが割って入ってきた。
「ノアは強いですよ! 僕も初めてEランクと聞いたときはとても驚いていましたし」
「そんなこと言ってるが誰がお前のことを信じるんだよっ!」
「まぁまぁ、これから一緒に戦うのに仲間割れしないで」
ユリアスとゲルデンをアミが宥めていると、部屋の入口で控えていた受付嬢が会話に入ってきた。
「そろそろよろしいでしょうか。依頼内容についてお話しますのでお座りください」
受付嬢がそう口にすると、先に座っていたわたしの隣にユリアスが座り、向かいにアミとゲルデンが座った。
「まず、依頼を受けてくださりありがとうございます。早急な解決が望まれていますので、今回集まったこの5名で動いていただきます。依頼内容は最初に言ったように、盗賊団リベルの討伐です。リベルは近くの森に潜んでいると思われます。盗賊は皆殺しても捕獲していただいても構いません」
受付嬢は真剣なのか、どこか淡々としている。
殺していいのは助かるかな。
殺しちゃいけないなんて、人間は手加減が難しいしね。
盗賊団リベルは周りの冒険者の話を聞く限り、周りから見たら強いらしい。
一応警戒はしておこう。
「んで? 報酬はどのくらい貰えんだよ」
ゲルデンが無愛想にそう訊くと、受付嬢は変わらず淡々と答えた。
「報酬は全員倒して銀貨5枚。リベルの拠点を発見した場合、追加報酬が支払われます。拠点は潰してもどちらでも構いません。尚虚偽の報告は後々バレますが、報酬を取るか冒険者生活を取るかは個人の自由です」
受付嬢の話が終わると、しばらくの沈黙が部屋を満たした。
「質問などは無いようなのでこれで失礼します。期限は特に設けませんが、早い討伐を望んでおります。それでは」
受付嬢は一礼してからこの部屋を去っていった。
「それでは、次の行動計画を決めましょうか」
ユリアスの言葉で、わたしたちは机に向かって話し合いを始めたのだった。
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