83.夜間の戦闘!?
気を失った酔っぱらいの両足首を掴み、ズルズルと引きずりながら衛兵詰所に連行。何故かボロボロになった酔っぱらいを引き渡す。
ついでと言っては何だけど、連れキラキラをしそうになったマリマリを少し休ませてもらうことに。私とカーニャと術部隊の子は、お茶をいただき一休み。
その間も、次々に連行されてくる酔っぱらいや荒くれ冒険者たち。他の領地ならいざ知らず、王都の治安維持が厳しいってことくらい、知ってそうなもんだけど。
とは言え、今回の討伐には王宮自体が多くの冒険者を雇ったみたい。だから、王都のことをあまり知らない冒険者パーティもいたかも知れない。
ただ、こっちはそんなこと知らないし。捕まりたくなかったら、事前に調べてから来ればいいだけの話なんだし。
きっと、あの人たちは討伐報酬目的でやって来てるんだろうけど、明日になれば討伐どころか、処罰を受けた挙句に王都への立入禁止となるんだろう。
王宮からの討伐募集は、かなりのお金になるって聞く。それなのに、それを棒に振るふるまいは、完全に軽率。いい大人なんだから、その辺のとこはちゃんとしなきゃ、ね。
◇◆◇ツイホウ◇◆◇◆◇◆◇ザンネンザンネン◇◆◇
回復したマリマリと詰所から出て、今度は城壁巡回へ。空が白み始めた頃、吸血鬼コウモルが三匹ほどこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
「でもさ、どうして吸血鬼コウモルは高く飛ばないのかな? それに、スピードもかなり遅いし」
「いやヒヨリ、言ってやるな。一目瞭然だろう」
「だなぁ。あれだけぇ、大きくて太っていたらなぁ、高くも早くも飛べないだろうしなぁ」
吸血鬼コウモルは、人間でいうと大人くらいの大きさがある。ただ、お腹がぽっこと出てるもんだから、見た目にも重そうな印象で。
だから、人よりもちょっと高いくらいの所しか飛べないし、走れば簡単に追いつく程度のスピードでしかない。ついでに動きも早くない。
とは言え、一般人からすれば十分驚異となるモンスターだけに、放っておくことも出来ない。
「ピリカ、お願いね!」
「まっかせなさぁい! ……ゴニョゴニョ……ライツッ!!!」
私達に帯同している、術部隊のピリカが呪文を唱え、光の玉をモンスターの目の前に出現させる。それに驚いた吸血鬼コウモルが、目を強く瞑ってボトボトと落ちてくる。
「よしっ! 今だよっ! はぁぁぁっ……たぁぁぁっ!!!」
「うおぉぉぉっ! アース・ブレイカァァァッ!」
「おぉぉぉ! 滅多刺しにぃ、してくれるわぁ! うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃぁっ!!!」
こうして、手に汗握る激闘を繰り広げ、見事に勝利を掴み取った私たち。ピリカを含めた四人でタッチを交わした後は、お決まりの鉱石砕きと回収。
全てが終わった、丁度そのころだ。東の空から二つの輪っかのある太陽が、ちょっぴり顔をのぞかせ始めたのだった。
◇◆◇アサコクダヨ◇◆◇◆◇◆◇◆◇オハヨウ◇◆◇
鉱石加工所を後にして王宮にたどり着くと、そこには多くの人だかりが。どうやら討伐隊の出発を見送るために、朝早くから街の人が出待ちをしているようだった。
「殆んどの人が、勇者様やハイルドライド様目的なんだろうね」
「まぁ、それはそうだろう。見送りの民衆を見る限り、圧倒的に女性の方が多く見えるしな」
「うぅむぅ……いい機会だぁ。せっかくだからぁ、私たちも警備を兼ねてなぁ、見送りに参加しようではないかぁ」
よく見れば、同じ考えなのだろうか、あちらこちらで兵士が民衆の前に立って、討伐隊の進路を確保している。それに習って私たちも民衆の前に。
――うん、役得だね。
煌びやかな防具を纏ったパカパカに跨り、悠然と目の前を横切るハイルドライド様は、眩しすぎて横目を逸らす。もちろん仮面の中のこと。
その後に続く、勇者様の勇ましい姿を目に焼き付けようとしたその時、真っ黒なパカパカに跨る勇者様が、私の方に視線を持ってくる。
そして、ニコリと微笑んだ。
――ふえっ!?!?
遠ざかる討伐隊を眺めつつ、笑顔の勇者様を思い出す。正体を明かしてないことに心が痛むけど、微笑んでくれたことにとっても嬉しいかった。
――勇者様、ご武運を。
そう呟いて、初日の夜刻任務は終了したのだった。
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