82.お触り禁止!?

 なんて、気合いを入れて始まった夜刻任務なんだけど、はっきり言って朝刻や昼刻任務となんら変わらないのは、前にも言った通り。


 城壁の外周を見回り、魔法鉱石を積んだ荷パ車を誘導。酒場で暴れる酔っぱらいを取り締まったり、路上で潰れた人を衛兵先輩に引き渡したり。


 たまに現れるモンスターを討伐し、魔法鉱石を砕いて回収。少量なら持ったままで巡回を続け、任務終了前に王都の東地区にある、鉱石加工所に持っていくようにしている。


 とは言え、夜刻に出てくるモンスターはちょっと厄介。ナイトキャットゥは夜目が効いて素早いし、吸血コウモルは高くはないけど空を飛べる。


 そんなモンスターには、閃光魔法が必須。いつもは三・四人のグループを作って巡回するけど、夜刻はそこに、術部隊の子がひとり加わる。


 この世界の人間は魔法耐性があるので、私達が魔法を使えないわけではない。ただ、術部隊ほど得意ではないというだけで。


 ちなみに、私達十七番隊の中ではカーニャが一番魔法が上手。


 はっきり言って、剣部隊にいる方が不思議なほどのレベル。だから、私達三人のグループには術部隊がいなくても問題ない。


 それでも、カーニャが魔法を使いたがらないもんだから、私たちにも術部隊の子が加わっての城壁巡回となっているってことで。


「いやぁ、まぁなぁ。せっかくぅ、術部隊がいるんだからなぁ。私のぉ、出番なんていらないしなぁ。これもぉ、適材適所だぞぉ」


 と、毎回そう言ってはぐらかすカーニャ。とは言え、その秘密は割と早めに明らかになるから、今はまだ触れないでおこうと思う。



 ◇◆◇カーニャガ◇◆◇◆◇◆◇◆◇アクジョ?◇◆◇



 さてさて、夜刻任務は滞りなく……と言うわけにはいかなかった。と言うのも、夜中に飲み屋街で暴れる冒険者が多く、喧嘩の仲裁や酔っ払いの移送で大忙し。


 店の中で、酔っ払って暴れまくる荒くれ者を取り押さえたり、路上でキラキラを出しまくる人を介抱したりと。


 まぁ、もっぱら粗暴な冒険者は、男性兵士が受け持ってくれるので面倒臭くはならないけど。とはいえキラキラを路上に放置しておくわけにもいかないから、掃除をしなきゃいけないのが面倒だけど。


「全くもうっ! どうして今日はこんなに酔っ払いが多いのかなぁ!」

「あぁ、本当だな。確か、今回の湖の討伐には、多くの冒険者を募集していたみたいだからな」

「だなぁ。結局はぁ、夕刻の出発を見送ったからなぁ。暇を持て余したぁ、冒険者が飲み屋街になぁ、集中したからじゃないのかぁ?」


 王宮からのモンスター討伐は、規模や状況に応じて冒険者を雇うこともある。サーカス団護衛の時など、騎士団の数が多く出る討伐は難易度が高いため、王宮戦士のみの討伐になる。


 しかし、今回の湖の討伐は難易度が低いと判断されたようで。騎士団も、ハイルドライド団長を含めた少数と勇者様がメインで、兵士も術部隊と拳部隊が一部隊ずつ。


 後は、冒険者パーティを雇っての討伐隊となっていた。


 ただ、夕刻に出発するはずだった討伐隊も、物資の遅れで出発を翌朝に見送った。そために、こうして冒険者が飲み屋街に繰り出して、羽目を外しているということみたい。


 ――全く……余計な仕事を増やして欲しくないんですけどねぇ。


 朝刻には討伐に出発するんだから、今日くらいは大人しくしてりゃあ良いのにと、愚痴りたくもなる。だけどまぁ、それが出来ないのが荒くれ冒険者というもので。


 その結果、兵士に余分な仕事を増やしているなんて考えもせずに、飲んだくれては喧嘩をしたり潰れたり。ホント、モンスターと戦ってる方が、どれだけましな事かと、声を大にして言いたいくらいだ。


 だって、モンスターの方は思いっきり倒しちゃえばいいわけで。でも、酔っ払いの方はそうはいかないもんだから、ほとほと困っている次第なのだ。


「もうっ! 大丈夫ですかっ!? こんな所で寝てたら、風邪ひくか追い剥ぎに会っちゃいますよっ! 起きてくださいっ!」

「あぁっ? なんだぁ!? 変な声で鎧が喋りやがったぜぇ……ヒッグ……とうとう俺もお陀仏っちまったのかぁ……ヒッグ……」


「はいはい! どうでもいいから早く起き上がって下さいね」

「んあぁ……そういや王都じゃ女の兵士は全身鎧だったなぁ……ヒッグゥ……ほんじゃよ、サービスしてくれや姉ちゃんよぉ……ヘヘヘヘェ……ヒィャッグ……ホイよっと」

 ――ピキッ!!!


「あのですね……やめて貰えませんねぇ……」

「いいじゃねぇか、お触りくらいよぉ……ヒッグ……あぁ……えれぇ硬いじゃねぇか……ゴブッ!?!?」


 ニタニタしながら触ってくる酔っ払っに、キツめの手刀を叩き込む。酒臭いだけでも近寄りたくないのに、セクハラ行為までやってきたんだから、手加減なしで問答無用の鉄拳制裁。


 たとえ鎧の上からだろうと、ダメなもんはダメだし、嫌なもんはいやだしね。それに、女性兵士へのオイタは、意外と重罪だったりもする。


 王妃様が決めたらしいんだけど、大いに賛成。死罪にしてもいいくらいだし。


 つまりは、これぐらいの制裁で私達に、おとがめなんてあるわけないし、逆に足りないんじゃないかと言われるレベル。


 こう見えて私、優しいんですよ? 見た目と一緒で。


 ――ふぇ? 鎧で分からない?


 それは残念でなりませんね。でもまぁ、分かる人だけ分かっててくれれば良いです。私がとっても慈悲深いってことに、ね?

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