79.お留守番!?

「そんな事ないわ。私たち騎士の鎧は最低限急所を守るため物だけど、プレートアーマーは完全な全身防具だから、安全性は桁違いじゃない」


 確かに、王宮支給の女性用プレートアーマーは優れもの。ある程度の攻撃や魔法では、傷ひとつ付けることができないし、中の人に外傷を与えることも出来ない。


 だから、騎士様が木刀を打ち込んできてもダメージなんて全く無いどころか、当たった衝撃すらほとんどないし。


 とは言え、そこは元兵士だった女性騎士様。鎧の特性を熟知しているものだから、唯一の弱点である鎧の可動域の裏側ばかり狙って打ち込んでくる。


 素早いステップで詰め寄られ、しなやかな体捌きでこちらの攻撃をかわす。そして的確に膝の裏を打撃されてバランスを崩す兵士たち。


 それはもう面白いくらい、あっちこっちで膝カックン。


 かろうじて健闘しているが二年兵のアシュリン先輩。さすが来季の十七番隊の隊長候補と呼ばれるだけあって、簡単にはカックンさせられてないようで。


 それより何より、あの華麗な攻撃を同等の動きで捌くのが、我らが隊長のサリッシュ先輩。来季の騎士昇格を狙ってるだけに、その動きには無駄がない。


 つるぎ部隊の、シャチル部隊長に特訓を受けてるだけあって、騎士様も終始感心しっぱなし。有能な騎士の誕生は、勇者様の負担を軽減できると大絶賛。


 同じ隊の後輩として、先輩を絶賛して頂けるのは、とっても誉高い。



 ◇◆◇サスガタイチョウ◇◆◇◆◇◆◇スゴイデス◇◆◇



 勇者様と言えば、北の領地の討伐遠征以降、お会いできていない。サリッシュ先輩は、二度ほど戦略会議でお会ってるみたいだけど。


 あの日、告白に失敗したと言っていたサリッシュ先輩。よくよく聞けば、私が立ち去って勇者様と二人っきりになった時に、こう言われたそうで。


『確か、アイスゴーレムの時のお方っスよね。詳しくは説明しにくいんスけど、香水で分かるんです、俺。あの時、凄かったスね。自分より強い相手なのに、仲間のために立ち塞がる勇気。すげぇカッコよかったっス。俺なんてただ、猪突も……えっと、無我夢中に立ち向かうだけで。兵士さんの姿を見て、人の為に頑張らなきゃって教わりました。本当にありがとうございます。これからも勉強させて下さい』


 終始、絶賛され続けたアシュリン先輩は、それだけで満たされたらしく、告白すること以上のものを、勇者様に頂いたのだと言っていた。


 何のことやらサッパリだど、本人が良いならそれでってことで。



 ◇◆◇キュウケイチウ◇◆◇◆◇キュウケイチウ◇◆◇



「サリッシュ先輩は、隊長会議に出てたんですよね。何を話されいたんですかぁ?」

「王都の南にある湖に、モンスターの群れが居座っているらしくてな。討伐隊の編成を、どうするかの話し合いだったな」


「それじゃあ、また勇者様と討伐に出るんですか?」

「いや、今回剣部隊は選ばれなかった。どうも湖に出たモンスターの傍には、闇スライムが大量に発生しているらしくてな」


「闇スライムですかぁ、だったら剣部隊は役に立てませんね」

「まぁ、そういうことだ」


 元来スライムは、あのブヨブヨせいで刃物が通用しない。下手に斬ってしまえば、増殖してしまう厄介なモンスター。


 だから、スライムの討伐には、もっぱら術部隊が対処するようになっている。


 魔法が得意な術部隊なら、どんなスライムでも対処できる。それに、敵を倒した後に出てくる魔法鉱石は小さなもの。剣を使わなくても、術部隊専用のナイフでも十分砕ける。


 結果、剣部隊の出番は無いと判断されて、今回の討伐には選出されなかったみたいで。それ以外のモンスターは、勇者様や騎士団が対処するという事らしい。


 ――その分、剣部隊は王都をしっかりと守んなきゃね。


「そういう事だ。留守中は頼むと、騎士団団長も仰られていたからな」

「ふえっ? ハイルドライド様とお会いしたんですか? わぁぁぁっ、羨ましいですぅ!」


「ふっ……隊長の特権だ」

「いいなぁ、直視できないけど、私もお会いしたいなぁ」


「それならもっと精進して、隊長になる事だ。そうすれば、勇者様や騎士団団長とお会いできる機会が増えるからな」

「よぉし、頑張るぞぉ! マリマリ、カーニャ、訓練再開だよっ!」


 そうして私達は、任務前までみっちりと訓練を行った。そして訓練は終わり、最後にサリッシュ先輩が、こんな言葉を口にしてきたのだ。


「あしたは夜刻任務だからな、忘れるなよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る