第5章・夜刻任務です!

78.朝の訓練!?

 ふたつの輪っかのある太陽が東の大地から顔を覗かせ、夜刻に冷やされた空気を、ゆっくりと温め始める。


 それに気付いた野良ニャコ達が、モソモソと動きだして、伸びをしたりあくびをしたり。元気な子ニャコはもう、小さなバードゥを追いかけ始めていた。


 コケッコの声で目覚めた人達が街に出始め、屋台を組んだり勤務先に急いだり。お仕事前の賑やかさが少しずつ溢れはじめるここは、世界最大の貿易の国、コスドーリア王国の王都。


 その中にある東地区の闘技場で、私たちは朝の訓練に励んでいた。


「はぁぁぁっ! はっ! はっ! たぁぁぁっ!!!」

「うおっ! クッ……負けるかぁぁぁっ!  ビッグ・マグナム・ストラァァァシュッ! グランド・バニッシュ・バァァァストォッ!」


「おぉぉぉ! ヒヨリが攻撃を軽々かわしているぞぉ。マリマリも、もっと頑張れぇ」

「くそっ! これならどうだっ! アトミック・デリシャス・スペシャル・スーパー・ノヴァァァァッ!!!」


「なんのっ! はぁぁぁっ……チェストォォォッ!」

「ぐぁぁぁっ!!!」


「それまでだぁ! 勝者ぁ、ヒヨリぃ!」

「よしっ!」


 木刀ではあるけど、手に汗握るほどの真剣勝負。お聞きの通り、本番さながらの緊迫感溢れる大接戦。毎度まいど、実際にお見せできないのが、とても残念でならない。


 王宮に所属する戦士は、定期的に合同訓練を行われなければならない。モンスター討伐はもちろん、魔王軍襲来に備えて、日々精進を怠るわけにはいかないのだ。


 ただ残念なことに、男性兵士とは違うの場所での訓練となっている。なので、出会いの場とはならなかった。


 ”それでも”たまに、騎士団の方々がお相手していただける時がある。


 ”それでも”と言うからには、男性の騎士様がやって来てくれることがあるのでして。そんな時の女性兵士のやる気はハンパなく、気合い以上に欲望を出してしまうのがたまにキズ。


 せっかく男性騎士様にお相手して頂けるのだから、実力以外の何かを出してしまったところで、不思議でもなんでもない。むしろ、出さなければ失礼にあたるのではないのかもしれない。


「いや、それはどうだろう。ヒヨリは少し、自重したほうがいいんじゃないか?」

「ふえっ? そんな事ないよ? 普通だよ?」


「おぉぉぉ! ヒヨリはぁ、欲望を出すのが普通なのかぁ?」

「でも、マリマリだって前回は、屈強そうな騎士様にグイグイ挑んでたよね?」


「いや……あれはだな、き……筋肉だ! 筋肉がいけないんだ! 私はただ、筋肉に吸い寄せられただけなんだ!」

「それに、その時はカーニャだって、細身の騎士様にまとわりついてたし」


「いやぁ、違うぞぉ。あれはなぁ、ちゃんと食べてるのかなぁ、気になっただけだぞぉ」

「ほらぁ! 二人だって気になってたんじゃない!」


 訓練中の手合わせも、数少ない出会いのチャンス。各々が、それぞれの欲望を持って望むのも仕方ない。とはいえ、今回は男性騎士様は来てないのだけど。


 ですので、テンション二割減。


 ――はぁ……やれやれってヤツですね。



「何を馬鹿なことを言っているんだ、お前たちはっ!」

「ふわぁぁぁっ!!! サ……サリッシュ先輩っ!」


「おぉぉぉ! やばいぞぉ。驚きすぎてぇ、マリマリの呼吸が止まりそうだぁ!」

「ぐっ……がぁ……」


「ったく、真剣味の足らんヤツらだ。少しキツめに揉んでやるから、覚悟するんだな」

「「「えぇぇぇぇっ!!!」」」


 その後の隊長との手合わせは、私達だけいつもの二割増で、喝を入れらてしまった。


 減退したテンションを考えれば、差し引きゼロだと言うサリッシュ先輩。疲労が余分に足されていって、訓練意欲がさらに減らされたのは言うまでもない。



 ◇◆◇ヘロヘロ◇◆◇◆◇◆◇センパイツヨイ◇◇◆◇



 その後、暫しの休憩を挟み、今度は女性騎士様との訓練に。必死に木刀を叩き込む兵士に対し、優雅に捌く女性騎士様。


 見た目にも、煌びやかな鎧を纏う騎士様に、全身無骨なプレートアーマーを装着している私たち。


 ――むぅぅっ……なんかズルい。

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