75.北の領地で闇落ち!?

 こうして魔王軍との戦いは、今回も王宮戦士の圧勝で終わった。もちろん、一番の功労者は勇者様とミンナ副団長。やっかいな魔獣の群れを引き受けてくれたから、私達も気にすることなく役割を遂行出来たし。


 騎士様方も。鮮やかに骸骨兵士を撃退していたし、北の領地所属の兵士に至っては、戦うことすらせずに済んだようで。


 もちろん、怪我人はひとりも出ていない。


 この戦いでも率先して大変な戦いをしてくれ、最高の結果をもたらしてくれた勇者様とミンナ副団長。同じ討伐部隊になれて、本当に喜びと誇りを感じている。


 ですので、これから先は兵士の仕事。騎士団の方々にも休憩して頂き、王宮兵士と領地兵士で魔王軍の残骸の後片付けに取り掛かった。


 基本、魔王軍はモンスターでははい。魔法鉱石を砕けば消滅するモンスターと違い、ご遺体や残骸は そのままの形で残ってしまう。


 さらに、放置し続ければ腐乱して悪臭を撒き散らし、疫病の元となってしまうのだ。


 大きな魔獣の亡骸は、切り刻んで地中深くに埋める。人型くらいのご遺体は、回収して焼却しなければならない。はっきり言って気持ち悪くて面倒だけど、二次被害を防ぐためにも必ずやらなければならない重要な作業。


 これもまた、兵士の仕事なのです。



 ◇◆◇オシゴト◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ガンバロウ◇◆◇



「僕の名前はカルクル。南の領地から来たんだ」

「私は東の領地出身の、ヒヨリです」


「俺は、西の領地から来たゴーバンだ。よろしくな」

「おぉ、私も西の領地だ。マリマリと言う、よろしくな」


「おぉぉぉ! 私もぉ、同じくだぁ。カーニャだぞぉ」

「わっしも、西の領地からきたんだど。シュミットガルダだ。よろしくだど」


「(うわぁ……名前負けだねぇ……)」

「(あぁ……名前負けだな……)」

「(おぉう……名前負けだぁ……)」


 ほっそ細なカルクル君に、筋肉質そうなゴーバン君。少し太めなシュミットガルダ君の三人は、術部隊所属で同期だそうで。同じ一年兵なものだから、お話も弾むはずむ。


 それに、数少ない出会いの場だから、男女共々あちらこちらで積極的に話しかけている。そんな私たちの様なグループが、至る所で談笑しながら作業を進めていたのだった。


 私達のグループも和気あいあいと作業を進めている、その時だった。


 雪の上でのお仕事なのに、汗をかくシュミットガルダ君が作業の手を止め、気だるげな表情で仲間と話し始めた。その会話の内容で、私の手も止まることになってしまったのだ。


 ――ついでに思考も……ね……


「もぅ、疲れたどぉ。勇者様もあれだけ強いんだから、魔法で全部焼き尽くしてくれてもいいんだどぉ」

「ふぅ……ふぅ……そうかもね。はぁ……はぁ……そしたら僕も、こんなキツい作業しなくて済むのにね」


「確かにな。全部燃やし尽くしてくれりゃさ、女子との話の時間が増えるのによ。気の利かねぇ勇者様だぜ」

「あ”ぁ”っ”!!!」


「うおっ! いかん! ヒヨリの全身から闇のオーラが吹き出し始めたぞっ!」

「おぉぉぉ! まずいぞぉ! ヒヨリがぁ、暗黒兵士になってまうぅ! 撤収だぁ!」


 そうして私はマリマリとカーニャに抱えられ、男子三人組から離される。願わくば暗黒兵士となって、感謝の足りない彼らを成敗したかった。


 だって、勇者様が一番大変な事をやって頂けたことに気づかないなんて、王宮戦士として致命傷と思わないんですかねぇ?


 いやいや、もっと言えば、感謝も出来ずによく生きていこうと思えますねぇ? それってもう、私的に重罪ですよ、重罪。


 早いとこ、滅しちゃっても良いんじゃないんですかねぇ? 私の兵士剣のサビにしちゃっても、問題ないんじゃないんですかねぇ?



 ◇◆◇ナンナノ?◇◆◇◆◇◆◇◆◇バカナノ?◇◆◇


 その後、最終防衛ラインにバリケードとして並べられた荷パ車の裏に連れていかれ、仮面を外される私。そこにいたパカパカの中に、放り込まれてしまった。


 ――ほわわぁ‥‥なんだろぉ……私の中の黒いモヤモヤが吸い取られ、身体がフワフワと浮き上がっていくよぉ……



 パカパカのモコモコで浄化され、惚けていた私。おかげで闇落ちすることなく、モフモフのを堪能出来た。


 これも、感謝なの……かな?



 こうして立ち直った私。ただ、この後で直ぐ、この遠征で最も重要なことを思い出させられる出来事が、待ち構えていたのだった。

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