73.北の領地でブラックヒヨリン!?

「と、言うわけでな。委員長兵士さんが騎士団副団長の愛パや、他のパカパカに優しくするわけだ。日頃厳しい目つきの委員長兵士さんが、柔らかくて慈しみのある眼差しで接しててな、もうキュンキュンが止まらなかったんだよ」

「(とんでもありません! 私は日頃から厳しい目つきなんてしてません。勇者様は、妄想が暴走しすぎてます)」


「だからよぉ、何とかお近づきになりたいんだけどさぁ」

「(近づいてます。それはもう、お互いの手が触れてしまいそうな距離にいるのです)」


「たださ、何かタイミングが悪いんだよなぁ……俺」

「えと……すみません……」


 思わず謝ってしまう、私なのだった。


「はぁ? なんでお前が謝ってんだよ? むしろ、毎回色々考えてくれて、助かってるんだぜ?」

「ふえっ? えと……そうなんですか?」


「あぁ、俺一人じゃ絶対に、何も思いつかないだろうからな。ホント、お前には感謝してるぜ。ありがとうな」

「(…………んなっ!!!)」


 そう言って微笑む勇者様に私は……私は……


 私は……



 ドキンッ!!!!!!



 勇者様から感謝の言葉を頂いただけでも嬉しいのに、その後の笑顔は破壊力がありすぎて、危険すぎる。心臓が爆発して止まりそうになるし、呼吸はしづらくなってしまうし。


 胸のドキドキは激しくなるし、寒い地方なのに、顔がとっても熱くなる。


 ――それに、この気持ちはいったい……なに?


 そんな私の横で、勇者様は両手を後頭部に当てて、視線を上にあげる。その先には、領主様のお屋敷が佇んでいた。


 それを見つめながら軽く微笑んだ後に勇者様が、ため息を吐いた。


「はぁ……なんつぅかさぁ、委員長兵士さんの興味を引くような話題とか無いかなぁ……」

「(ふえっ? 私、勇者様のお話なら、なんでも興味がありますよ?)」


「委員長兵士さんと盛り上がれるような話、ねぇかなぁ……」

「(大丈夫です。勇者様となら、どんな話題でも盛り上がれます。例えば北の領地……観光地……!?!?)」


 来ましたっ! 悪い心です! お久しぶりの、ブラックヒヨリン降臨です!


 ピロピロピロピロ〜〜〜ン! ですっ!


 今までは失敗続きだったけど、今回は上手くいきそうな気がする。


 だって、今回は同じ先遣隊ですし、北の領地にいる間は会う機会はたくさんありますし。そこでお話しすることになっても、不思議でもなんでもないですし。



『兵士さんも、同じ先遣隊だったんですね』

『はい、ご迷惑をかけるかも知れませんけど、よろしくお願いします』


『迷惑なんて、とんでもない! 兵士さんは俺が絶対に守りますから』

『本当ですか! 嬉しいです』


『兵士さんは、俺の委員長ですから』

『そんな、委員長だなんて……嬉しいです』



「えへへへぇ……」

「お〜〜〜い、もしもぉし! 聞こえてるかぁ?」


「……はっ!?!?」

「お前、たまに変な顔するよな」


 ――いけないいけない、ついつい妄想が暴走してしまった。


 そんな私を、勇者様は引き気味に眺めていた。これでは勇者様のことを、とやかく言えない。無理やり気持ちを取り戻し、私は勇者様に提案したのだった。


「北の領地は観光地なですから、お土産のお話なんてどうですか?」

「お土産? なんでだ?」


「例えばです、勇者様がお土産のことを詳しくお話すると、何を買えばいいのか迷わなくて済みます」

「おぉ! 確かに! それで?」


「お買い物の無駄が省けますし、何でも知ってるってことで、頼りになると思われるのではないでしょうか」

「なるほどっ! お前って、ホント頭いいな。よしっ! 善は急げだっ! 俺はちょっと、お土産の事を調べてくるぜっ!」


 それから勇者様は、露店街の方に駆け出していった。一度こちらに振り向き、笑顔で右手をブンブンと降ってくれる。


 その笑顔が嬉しくて、右手を持ち上げ、小さく振りかえしてしまう私。ニマニマが止まりません。



 勇者様の背中が見えなくなるまで見送り、私も移動を始める。お屋敷までの通りを進んでいると、少し前の路地からサリッシュ先輩が現れた。


 そのまま、お屋敷に向かうサリッシュ先輩に声を掛けようとして……重要なことを思い出してしまったのだ。


 もちろん、サリッシュ先輩が勇者様に、告白すると言ったことを。


 チ━━━━━━━━━━ン! です。



 その日の夜に到着した本隊を交え、二日後に大規模な戦闘が、北の領地で展開されたのだった。

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