71.浮かれ気分!?

 ◇◆◇リョウシュサマ◇◆◇◆◇◆◇◆◇アリガト◇◆◇



 という訳で、私は街に出てお買い物。魔王軍の出現に備えて討伐部隊を三組に分け、順番にお土産を買いに行くことになっている。


 三番目の組だった私は、先に出たマリマリやカーニャの話を聞いて、露店街にやって来た。


 お屋敷から露店街までは遠くなく、上機嫌な私はスキップをしながら移動したのだった。


 ――決して旅行先で浮かれた、おのぼりさんではないんだよ?


 それにはちゃんとした理由がある。お屋敷に到着し、荷台を厩舎前の広場に止め、荷台の点検を始めようと思った、その時だった。


 厩舎から物凄い勢いで、アンネロッテが飛び出してきたのだ。


 それだけでも嬉しかったのに、荷台から開放された他のパカパカに囲まれてしまって。もう、モコモコ天国。


 プレートアーマーを脱ぎ捨てたくなるほどだったし。


 それ以降、パカパカからのスリスリ攻撃が延々と続く。結局は持ち場を変わってもらい、私はパカパカのお手入れをする事になった。


 特に、アンネロッテは他の子が近づくと頭突きをするものだから、独占状態。


 まさかここで、彼女のお手入れが出来るなんて思いもしてなかったもんだから、もう嬉しくて嬉しくて。だから今も、上機嫌の有頂天ってわけなのでして。


 おのぼりさんと思われても仕方ないかなと思えるくらい、リズミカルなスキップで露店街に向かったのだった。



 ◇◆◇モコモコ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ウレシカッタナ◇◆◇



 日持ちのしそうなお菓子を買い、北の領地っぽい小物を購入。ここにしか無いお茶の葉と、雪の結晶の形をした小瓶を買って、買い物終了。


 大満足。


 残ったお金でキャンデ買おうと、お菓子屋さんを探す。


 観光地なだけに、王都とは全く違う品揃えの露店を眺めながら歩いていると、噴水広場前でお菓子屋さんの露店を発見。


 そこに並ぶものは、あっちには無い色や形のキャンデばかり。もう、ワクワクが止まりません。


 予算的に、全種類買うことは出来なかったのが残念。もう少し、お土産を減らしとけばよかったと後悔するばかりな私。


 たっぷり熟考して六種類のキャンデを購入すると、お店のおじさんが二つほどサービスしてくれた。


「こんだけ気に入ってくれたんだ、サービスしなきゃ男が廃るってもんだ」

「わぁ! ありがとうございます」


「お嬢ちゃん、観光かい?」

「えと……まぁ……そうですね。はははっ……(ゴメンなさい、王宮兵士だとは、言えないんです)」


「そうかいそうかい。じゃあ、これを持っていきな。ほれ、観光地の案内書だ」

「ふえっ!? でも、いいんですかぁ?」


「構いやしねぇよ。ここを好きになって、また来てくれりゃそれでいいさ」

「ありがとうございます、絶対にまた来ます」



 ◇◆◇アンナイショ◇◆◇◆◇◆◇ウレシイ◇◆◇



 噴水の縁に腰掛け、氷に似せたキャンデをひとつ頬張りながら、頂いた案内書を眺める。自然の美術館に、スキイの出来る山、野外のスケイト劇場。


 挿絵もあって、観光地の魅力がふんだんに盛り込まれてて、とっても楽しい案内書だった。


 夢中になって食い入るように見ていた、その時だった。不意に頭上から、声が降りてきた。


「よぉ、何やってんだ? お前?」

「ひやぁっ! ?!?  あ”っ”! ……ガハッ! ……ケヘッケヘッ!」


 驚きすぎて、キャンデを喉に引っ掛けてしまいました私。前屈みでむせ込むのだけど、なかなか出てきてくはくれなかった。


 すると、そんな私の背中を誰かが強めに叩いてくれたのだ。


「おいっ! 大丈夫かよっ!」

「ゴホッゴホッ! ゲホゲホッ! ケホッ……はぁはぁ……」


「ったく、何やってんだよ。ほら、これで口元拭え」

「はぁはぁ……あ、ありがとうございます」


 差し出されたハンケチを受け取り、口元を拭う。むせ返って上がった息を整え、前屈みの上体を起こした。そして、私の左側で背中を摩ってくれている人の方に視線を向ける。


 そこには意外だけど、実際は意外でも何でも無い人物が、心配そうな表情で私を見つめてくれていた。


 その方と目が合った瞬間、心臓は跳ね上がるし、呼吸は止まりそうになるし、身体は動かなくなるし。


 驚愕とは、こういう事なんだなって学んだ瞬間だった。



 勇者様です。



 なんと、私の背中を摩ってくれていたのは、勇者様だった。これを驚愕と言わずに何と言うのだろうと思うばかり。


「ふえっ? えぇぇぇぇぇぇっ!?!? あ”っ”!!! ガハッ! ……ゲホゲホッ!」


 再びキャンデを喉に詰まらせるのは、もはやお約束というやつなのかもしれない。

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