70.北の領主様!?

 ◇◆◇カイソウ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇シュウリョウダ◇◆◇


 とまぁ、長い回想だったかな?


 領主との挨拶は滞りなく終わり、今現在の領地の様子を聞かされた。とりあえず今は、魔王軍の姿は確認出来てないようだ。


 それは安心なのだが、今回の遠征はいつものよりも疲れた気がする。その原因は移動中の寒さにあって、都会育ちの俺には厳しすぎるものがあったのは間違いない。


 とりあえず身体を休めるために、俺はミンナさんや騎士団より早く、領主の部屋を出た。とは言え、すぐには部屋には行かず、何気なく廊下の端まで歩いて窓の外を覗いた。


 ――へぇ。こっからだと、都市の中が一望できるんだな。王都よりは……やっぱ小さく感じるな。


 そこでふと、視線を左側に向ける。この屋敷から少し離れた所に、討伐部隊の荷パ車が並んでいるのが見える。鎧を見る限り女性兵士専用の物のようだ。


 あの中に、委員長兵士さんが居るのかなと目を凝らすも、同じ鎧ばかりで誰が誰だか分からなかった。


 窓を開けても風向きが悪いのか、それとも建物の高さのせいだろうか。さすがに最上階のこの場所まで、香りは届いてこなかった。それでも女性兵士の作業を眺めている、その時だった。


 突然、手前の建物……おそらく厩舎から、真っ白なモコモコが飛び出したかと思えば、一人の兵士に飛び込んで行った。


 そのモコモコ……アンネロッテを両手を広げて受け止めた女性兵士。直感的に、あの兵士が委員長兵士さんなんだと思ってしまった。


 ――いやまぁ、根拠が無いわけでもないけどな。


 サーカスの時のサーベルライオもそうだったけど、きっと委員長兵士さんは動物に好かれる体質なんだろうと推測できる。


 多分、アンネロッテがミンナさん以外に懐いているという新人が、あの委員長兵士さんなんだろう。何となく、彼女らしいなと思った次の瞬間だった。


 荷台から離された茶色いパカパカが、一斉にアンネロッテを受け止めた委員長兵士さんの方に向かっていったのだ。


 あっという間に、パカパカに囲まれた委員長兵士さん。もみくちゃになりながらも、一頭一頭を優しく撫でているように見える。


 その光景を目の当たりにした時、俺の妄想ビジョンが発動してしまったのだ。



 ◇◆◇モウソウ◇◆◇◆◇◆◇◆◇キドウカイシ◇◆◇



 仮面の下の委員長兵士さんは、いつもの厳しい目付きから目尻を下げて、柔らかい表情になっているに違いない。


 そして、パカパカの一頭一頭に声を掛けているんだ。それが例え、アンネロッテだろうが何だろうが、分け隔てなく笑顔を向けているんだろう。


 きっと委員長兵士さんはパカパカに、こんな言葉をかけながら撫でているのだ。


「長旅だったけど、皆んなご苦労さま。大好きだよ」


 そう言って、さらに優しい笑顔を向ける委員長兵士さん。その言葉に喜んで、さらに擦り寄るパカパカ達。


 幸せそうに頬ずりする表情は、まさ地上に降りた天使のようで。


 そんな……そんな委員長兵士さんに……俺は……俺は……


 俺は……


 キュンキュンしちまったぁ━━━━━━━━っ!!!



 ◇◆◇モコモコ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇イヤサレルゥ◇◆◇



 厩舎で作業を終えた私達は、お屋敷に集められ領主様と対面する。王様と違って背が高く、寡黙な表情は噂通り。特に、一年兵は緊張するばかりで。


 発せられる低い声が厳格さを強調するようで、ますます身体を強ばらせてしまう。


 ただ、話の内容は真逆なものだった。討伐部隊全員に来客用の個室を与えられ、浴場はいつでも使用可能。食事は食べ放題の飲み放題で、おやつは自室に持っていっても良いのだとか。


 鎧の手入れも着衣の洗濯物してくれるらしく、さらにお土産代も支給され、至れり尽くせりでビックリだった。


 見た目は全く違っても、王様同様に国のために働く者には、物凄く手厚くしてくれる。そんな領地様に、心から感謝する私達なのだった。

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