69.調子に乗りすぎた!?

 倒したブリザードドラゴンの魔法鉱石は、人の頭くらいの大きさだった。さすがに兵士に処理をさせるのは骨が折れるだろうと思い、剣を引き抜き、鉱石を砕い瞬間だった。


 俺達がやってきた方向から、覚えのある香りが漂ってきた。


 スッキリとした甘酸っぱいグレープフルーツの香り。俺はこの香りが大好きで、部屋の芳香剤も似たような物を使っていた。だから、この香りをこの世界で感じた時は本当に驚いた。


 俺が知る限り、この世界で、この香りを漂わせる人物はたったひとり。


 ――委員長兵士さん!


 そう呟いて、俺達がやってきた方を振り返る。そこには雪原しか見えなかったけど、確かあっちでも、モンスターと戦闘をしていたはず。


 とは言え、戦っていたのは騎士団のはずたった。なのに、その方向から兵士である彼女の香水の香りが漂ってきた。



 この討伐遠征で騎士団の活躍は目覚しく、討伐したモンスターは速やかに山積みにするのは、後から来る兵士のためだとか。めんどくさい後処理をやってもらうんだから、せめてやり易いようにと言うことらしい。


 王族もそうだけど、例え位が低くい相手でも、感謝を忘れない騎士団は本当に尊敬ができる。


 俺なんて、サッカーの試合の時、チームの誰かがミスしたら直ぐに感情的になってたから、余計にそう思ってしまうし。


 そんな騎士団が戦っている所から、あの香りがやってくるという事は、考えられることはただひとつ。


 ――かなり苦戦をしているんだろうな。


 俺がそちらに視線を向けていると、俺が砕いた鉱石をさらに細かくしていたミンナさんが言ってきた。


「私は鉱石の回収をしてから向かうから、シュンキ君は彼らの元に行ってもらえる?」


 それを聞いた瞬間、俺は俺専用のパカパカに飛び乗った。真っ黒なパカパカで”GT-R”と呼んでいる。あっちの世界で、父親が乗っていた車の名前だ。


 スピードはとにかく早く、真っ直ぐ走らせると追いつくパカパカは皆無だった。ただし、頭の方はそこまで良くない感じだ。それもまた、愛嬌だと思ってるけどな。


 そんなGT-Rを飛ばし、香りの方に向かう。暫くすると、アイスゴーレムに弾き飛ばされる騎士と女性兵士が視界に飛び込んできた。


 騎士の方は身体を捻って着地をしたけど、兵士の方は弾き飛ばされていく。その兵士を受け止める為に、飛び出した女性兵士からあの香りを感じたのだ。


 身を挺して仲間を守る、委員長兵士さん。受け止めきれずに転がっていくが、その仲間を想う気持ちと咄嗟に行動に出る勇気に、感動したことは間違いない。


 ――やっぱ委員長兵士さんは、すげぇや。


 地面に転がった二人の前に、別の女性兵士が立って剣をかまえるけど、相手はアイスゴーレムだけに無理があり過ぎる。兵士ひとりじゃ受け止めれる攻撃じゃないし。


 だから俺はGT-Rから飛び降りて、一撃をぶちかましてやった。カッコいい姿を見せてくれた委員長兵士さんに、カッコいいところを見せたくなったから。



 グランデッド・メテオドライバァァァァァァッッッ!!!



 ――ふっ……決まったぜ。


 俺の一撃で、粉々になったアイスゴーレム。ただ、その後に誰もリアクションしないから無性に恥ずかしくなってしまった。


 思いっきりキメポースをしているだけに、何か言ってもらわないと動きも取りづらい。結果、そのままのポーズを維持せざるを得ない自分が情けない。


 と思っていた時だ、隣で騎士が戦っていたアイスゴーレムが砕け散る。そこにはアンネロッテに跨ったミンナさんの姿があった。


 ――助かったぁ……ミンナさん、ありがとぉ……


 その後、ミンナさんとアイコンタクトを交わして反転。目の前に立つ兵士や、片膝を立てている兵士をスルーして、委員長兵士さんに微笑みかける。


 そして、俺とミンナさんは他の騎士を助けるために、その場を駆け出したのだった。



 ◇◆◇ハズカシカッタ◇◆◇◆◇◆◇タスカッタ◇◆◇



 モンスターの群れを全滅させ、後の処理を兵士に任せ、俺と騎士団はその場を離れた。


 もう一度だけ委員長兵士さんに会いたかったけど、同じ先遣隊だけに、また会えるだろうと思いながら移動。その後、一度だけモンスターと交戦し、いよいよ北の領地の都市を一望できる丘に到着した。


 挨拶のためだという事で、俺とミンナさん、そして二人の騎士とで都市に入り、領主と挨拶を交わす。


 国王の弟と言ってはいたけど、全然似てなかった。あっちは背が低く肥満気味だけど、領主の方はスラリと背が高くてカッコいい。


 強いて言うならば、目元はそっくりだったくらいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る