68.ミンナさん!?

 シュンキ(勇者)目線。



 ◇◆◇ユウシャサマ◇◆◇◆◇◆◇カイソウチウ◇◆◇



 ちょっと前に遡る。


 こっちの世界に来てから四ヶ月、色んな土地を巡らせてもらった。


 広大で穏やかな東の領地。自然豊かな西の領地は、コスドーリア王国では一番多く、魔法鉱石の採掘場がある所だ。


 大きな火山のある南の領地は、向こうの世界では沖縄くらいの暑さがあった。まぁ、沖縄には実際に行ったことはないから、そんな印象ってことだ。


 そして、今回は北の領地と。


 これで、コスドーリア王国の全ての領地をコンプリート。小さな街や村はあるみたいだけど、主要の都市は全て巡る事とになるわけだ。


 ただ、東の領地だけは広大すぎて、都市まで行ったことは無い。日程の都合上もあったけど、領地全体の五パーくらいしか見れてないらしい。


 とは言え、領地の大半が果樹園や畑ばかりで面白みは全く無いと言われた。しかし、俺的にはアリだった。


 あっちの世界では、産まれた時から都会暮らしだっただけに、ああいった雰囲気は満更でもなかったし。それに、会う人会う人みんな気さくで、暖かくて優しくて。


 なんとなく……ホントなんとなく、委員長兵士さんを思い出させる人たちばかりだった。


 将来は、永住出来たらいいなと思わないでもない所……かもしれない。魔王軍が王都や鉱山のある領地を狙っている間は、そうもいかないのだろうけど。



 ◇◆◇イナカッテ◇◆◇◆◇◆◇チョットイイ◇◆◇



 そんな中で、この北の領地は三泊四日の道のり。王都からは一番近い領土で、移動も楽だったように思える。聞けば、北の領地は魔法鉱石の採掘を始めた、国内最初の領土だから、王都までのインフラを真っ先に進めたらしい。


 寒い地域なだけに、モンスターの数も少なかった。ただ、出てくるモンスターは表面が硬く、騎士団や兵士はかなり苦戦しているみたいだった。


 ――まぁ、ミンナさんは別だったけどな。


 コスドーリア王国、騎士団副団長のミンナさん。史上最高の美女と呼ばれ、最近まで直視出来なかったほどの、超絶美人なお姉さん。


 美の女神などと称されるているのも、大いに頷ける人物だ。


 サーカスの時に、手紙を渡されそうになったけど、テンパりすぎて受け取り拒否してしまった。ってか、あの頃はまともに顔も見れないのに、無理だろって話だし。


『なんて言うか、その……ミンナさんって気が利いて優しくって、それでいて砕けた感じがしてですね。俺、ひとりっ子だから、姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなぁって。……変っスかね』


 あの日から、ぎこちなくなるかと思ったけど、それ以降も何事も無かったかのように、接してくれているのが有難い。


 俺としても、お姉さん的存在でいて欲しいと思ってるし。だからこそ、直視できるようになりたと思って頑張った。


 今では、至近距離じゃなければ何とか……見れてるのかは、自信はないが。ミンナさんの方は慣れているのか、何も言わないでいてくれる。


 ――ホント、出来たお姉さんだ。


 そんなミンナさんとの共闘は、これまで何度かあったけど、とにかく強くて鮮やかで艶やかで。特に愛馬……じゃなく、愛パのアンネロッテに跨ったミンナさんは、とてつもなくハンパない。


 美の女神が、イナズマに変わる瞬間だ。


 ミンナさんの愛パの、アンネロッテがまた凄すぎて、”戦場の貴婦人”という異名を持っているほどだ。


 真っ白に輝くモコモコが、戦地を駆け巡る姿は美し過ぎて、見とれてしまうほど。頭も良ければ攻撃力も高く、自分よりも巨大なモンスターを、頭突きで弾き飛ばす姿は、とにかく圧巻でしかない。


 純粋な力ならば、騎士団団長のハイルドライドさんの方が、ミンナさんより強いと思う。だけど、アンネロッテとのコンビなら、恐らく彼でも倒せないだろう。


 これまでの戦いで、そう実感出来るし、ハイルドライドさんも、そこは認めていた。


 一度だけ、あのモコモコを触らせて貰った時、アンネロッテに物凄く嫌な顔をされたのを思い出す。しかも、ミンナさんがよそ見をしている間に、背中に頭突きを食らった事があった。


 とても気難しくって誇り高くて、ミンナさん以外が触ったり手入れをする時は、細心の注意が必要なんだとか。


 機嫌を損なうと直ぐに頭痛をくらわして、そっぽを向くそうで。ただ、最近は新しく入った兵士のひとりに、かなり懐いていると聞いた。


 その兵士が近くにいると分かれば、すぐさま厩舎を飛び出していくほどらしい。アンネロッテのことを知っている者としては、驚きでしかないないのだが。



 ◇◆◇シンジン◇◆◇◆◇◆◇◆◇スゴイナ◇◆◇



 そんなコンビは、この北の領地でも力は全く衰えない。


 アンネロッテの素早い動きに、ミンナさんの剣捌き。永久凍土並の硬さのあるブリザードドラゴンの表面を、楽々貫いていたし。


 おかげで俺は、最後の一撃のみで、ほとんど活躍なんてしていない。なのに、ミンナさんの言葉は謙虚なものだった。


「あれだけの巨体を誇るブリザードドラゴンを粉々にする事なんて、私にはとても出来ないわ。私にできることは、シュンキ君がとどめを刺し安くするくらいね。きっちりと仕留めてくれて、本当にありがとう」


 必ず最後に、感謝の言葉を出して来るところは大いに尊敬できるし、俺もそうなりたいと思っている。

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