67.北の領地は観光地!?

 ◇◆◇キシサマ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇アリガト◇◆◇



 その後、討伐部隊は丘を降りて城門をくぐり、都市に入って行く。城門前には王都と同じ噴水があり、その通りを割と多くの人が行き交っていた。領民と言うよりは、よそ行きの服装を来た人の方が目立っていた。


 どうやら、観光客のようだ。


 北の領地はコスドーリア王国の中でも、一番古い魔法鉱石の採掘地らしい。だけど、実は観光地でもある。


 最大の目玉としては、北部にある山脈の、永久凍土に閉じ込められたモンスターを観覧するツアー。まるで自然の美術館の様だと言われ、人気が高く、領地の財源のひとつとなっているらしい。


 他にも、スキイやスケイトなど、この土地特有の娯楽もあるようで。特に、氷上スケイト団の演目は評判が高い。ひとたび公演となると、国内外から人が押し寄せて来るほど、人気があるのだとか。


 自然の美術館と合わせ、”芸術の都”と呼ばれているのだ。



 ◇◆◇カンコウチ◇◆◇◆◇◆◆◇タノシソウ◇◆◇



 噴水を超えた辺りで、遠征部隊に手を振る人達が目立ち始める。着ているものを見る限り、観光客ではなさそうだ。恐らくは領民で、皆さん期待の籠った眼差しを向けてくれていた。


 道中や中継所で聞いていたけど、最近はこの領地の魔法鉱石採掘場で、頻繁に魔王軍が現れるとか。


 採掘された鉱石を奪い取ろうとしているようで、領地にも騎士様や兵士はいるみたいだけど、押し返すだけで手一杯なのだそうだ。


「最近は北の領地で新たに、大量の鉱石が埋蔵された場所が見つかったらしいよ」

「ほぉ、そうなのか。だが、魔法鉱石ならば西や南の領地で採掘される方が良質なのに、何故に北の領地を狙うのだろう?」


「うぅむぅ……深刻だなぁ。魔王を復活させるにはぁ、たくさんの魔法鉱石が必要らしいぞぉ。だからぁ、大量に取れる北の領地を狙ってるんじゃないのかぁ」

「へぇ……って、ふえっ? カーニャって、どうしてそんなとこまで知ってるの?」


「うむ、確かにな。ヒヨリの言う通りだ。やけに詳しいじゃないか」

「ふっふっふぅ。実はなぁ、その筋の人間になぁ、聞いたんだぞぉ。詳細はぁ……秘密だぁ。あははぁ」


 妙に、意味深に振る舞うカーニャ。謎多き女を目指しているのかもしれない。



 ◇◆◇ナゾノオンナ◇◆◇◆◇◆◇メザシテル?◇◆◇



 お城に近づくにつれ、領民の数は増えていき、歓声さえも上がるほど歓迎された。とは言え、そのほとんどが騎士団に向けられたもので。


 騎士様達も慣れているのだろう、パカパカの上から領民に手を振りながら、進んでく。そのお姿が優雅すぎて、歓声がさらに大きくなっていったのは、言うまでもない。


 こうして討伐部隊は、お城の敷地に入っていく。騎士団と先輩兵士はそのままお屋敷に。一年兵は荷パ車や騎士様方のパカパカを納めるために、厩舎に向かって行った。


「やっと着いたね。あぁぁっ……疲れたぁ」

「いやいや、ヒヨリ。背伸びをするのはまだ早いんじゃないか? まだ、ひと仕事残っているのだからな」


「うぅむぅ、そうだぞヒヨリぃ。早くぅ、仕事を終わらせてなぁ、浴場に行くぞぉ」

「そうだね。それじゃ私は積荷を下ろすから、パカパカの方をお願い」


「うむ、了解だ。任せておけ」

「おぉぉぉ! やったぞぉ! 遠慮なくぁ、モフモフさせてもらうではないかぁ」


 そんな会話をしている時だった。厩舎の中から女性の悲鳴が聞こえてきたのだ。


「キャアッ! ちょっ……ダメ……ダメだったらぁぁぁっ! 戻ってきてぇっ!!!」


 そんな悲鳴の直後だった。厩舎の中から大きく真っ白な綿毛が、私めがけて飛び込んで来る。とっさのことだったんだけど、私は条件反射のように、両手を広げて綿毛を受け止めたのだった。


「アンネロッテっ!」

「クケェェェェェェッ!!!」


 もちろんその後で、アンネロッテと戯れた。私とだけ、こんなに仲良くしてくれてるんだから、いっぱいモフモフしなきゃもったいないし。


 ――あぁ、当然モフモフのおすそわけはしましたよ? 独り占めは良くないですから、ね?


 だって、苦楽を共にする同期だもん。思いっきり楽しめるときは、皆んなと共有しなくちゃね。



 ◇◆◇フワフワァ◇◆◇◆◇◆◇モコモコォ◇◆◇



 パカパカや荷パ車の整備をしながらふと、勇者様のことを思い出す。あの時の笑顔は何だったのかな……と。


 何となく作業の手を止め、お屋敷の方を眺める私なのだった。

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