66.到着!?
サリッシュ先輩の妄言を聞かされた翌日、いよいよ北の領主様のお屋敷に向けて出発。とは言え、辺りは一面の銀世界だし、雪もかなり積もっているの、でそれなりの準備が必要だった。
荷台の車輪を外し、滑りやすい板を取り付ける。昼刻までに着くということで、パカパカの負担軽減のために、食糧や水なども最低限の量だけを積み込んで、車重を軽減。さらに搭乗者数を半分にし、交代制で残りの半分は歩きとなった。
パカパカは力持ちでスタミナもあり、暑さ寒さにもとっても強い。とは言え、あまり無理はさせられない。それほど雪道は足に負担がかかるし、荷台が滑りでもしたら巻き込まれてしまう。
――パカパカだって王宮戦士の一員なんだもん、大変な思いばかりはさせられないもんね。
◇◆◇パカパカモ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ナカマダヨ◇◆◇
道中では一度だけ、山積みのモンスターの残骸処理をしただけで、昨日のような戦闘は起こらなかった。それだけ、ブリザードドラゴンの出現は突発的だったようだ。
「やっぱり、勇者様とミンナ先輩って、本当に強いんだねぇ」
「あぁ、確かにな。これだけの数のモンスターのほとんどを、勇者様と副団長様が倒したと予想できるしな」
「だなぁ。しかしだぁ、昨日のサリッシュ隊長のぉ、告白の話は本気だろうかぁ」
「ふむ、それは気になる。そうなると、ヒヨリにとっては強力なライバルになるのは間違いないだろう」
「ふえっ? だ……だから私は……そうじゃないって言うか……その……ふぇぇぇっ!!!」
「(ふっ、やはりヒヨリをからかうのは面白いな)」
「(ふっふっふぅ……暫くはぁ、楽しめそうだぁ)」
鉱石を砕いている時のサリッシュ隊長は、どこか上の空。たまに鉱石ではなく、イエティの身体をザクザクと突き刺し続けていた。例えモンスターとは言えど、思わずご冥福を祈りたくなってしまう私達だった。
◇◆◇ゴメンネ◇◆◇◆◇◆◇◆◇イタカッタネ◇◆◇
鉱石を回収し、移動を再開して暫くのこと。小高い丘の上に、先行していた騎士団の方々の姿があった。トラブルがあった様子もなく、むしろ待っていてくれているように見える。
程なく騎士団の元に到着。ただ、そこには勇者様とミンナ副団長の姿は見当たらなかった。聞けば、勇者様を含めた騎士様数名が、北の領主様のお屋敷に向かわれたとのことで。残りは兵士達と合流してから来るようにと、指示されたらしいのだ。
「この様な大所帯の遠征の時は、いつも副団長が挨拶に行ってくれるの。全員で行くのは礼儀に反するからってことね。先方も、副団長殿が相手では、嫌な顔ができないみたいだから」
シャチル部隊長のそんな言葉に、不安を覚える。国王様と北の領主様は不仲だと言う噂もあるし。ミンナ先輩は、そんな事は無いと言っていたけど、やっぱり不安。
立場を利用して嫌なことを言われたり、変な要求をされなきゃいいんだけど……
――うぅぅぅん……心配はつきません。
「そうじゃないのよ、北の領主様はとても出来たお方でね。失礼のないように、到着の挨拶に向かわれただけのことなの。だから、心配する必要は全くないのよ」
そんな言葉を聞きつつ、丘の上から北の領地を眺める。すり鉢状の地形の真ん中にある、城壁に守られた都市は、王都の三分の一程の大きさくらい。何故か、都市やその周辺には雪が積もっていなかった。
聞けば、標高が低い所にあるためと、その場所だけ地熱が温かいのだとか。極寒の北の領地の中では比較的過ごしやすく、人口の殆どがそこで暮らしいるのだそうだ。
「北の領地って初めて来たけど、綺麗なとこだよね」
「あぁ、そうだな。氷の大山脈の白に、麓にある大地の緑とのコントラスト……美しすぎる」
「おぉぉぉ! 大変だぁ! マリマリがぁ、寒さのあまり頭が朗らかになってしまったぞぉ!」
「ふえっ? そう言えばマリマリ、王妃様のスカーフしてないよ!?」
「うぅむぅ……昨日なぁ、洗った後になぁ、干すのを忘れてたらくてなぁ。朝起きたらぁ、カチコチになってんたぞぉ」
「白と緑……白と緑のコントラスト……あぁ、目の前の景色が全て、ブロッコリ入のホワイトスープだと、綺麗で美味いだろうなぁ……」
「「おぉう……完全にイッてる」」
暫くして北の領主様のお使いの方がやってきた後、残った王宮戦士は移動を開始。地面に雪が無くなってきた場所で、荷台の板を車輪に交換する。
その際は、騎士団の方々も手伝ってくれて作業が進み、速やかに移動を再開する事ができたのだった。
とっても感謝です。
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