5.香水!?

 せっかく褒めてもらってるけど、断腸の思いで話を戻します。


 実は、こんなに有能なプレートアーマーなんだけど、二つほど残念な欠点が、あったりもする。これは、女性兵士に限定される事かもしれないけど。


 ひとつ目の欠点。


 実はこのプレートアーマーは、頭部が男性用と女性用では、少々違う造りとなっている。男性の物は顔の見える"兜"になっていて、女性の方は顔の見えない"仮面"となっていた。


 ちなみに、この鎧はコスドーリア王国の鉱山で豊富に取れる、魔法鉱石から出来ている。それを、王都東地区の製鉄所で鋼材にし、生産されたらしい。


 その利点としては、魔法鉱石に含まれる魔力が"魔法障壁"となって、鎧全体を覆っている。効果としては、前にも言った通り、ある程度の物理攻撃や魔法は、障壁に阻まれて鎧まで届かない。


 そしてここからが欠点で。同じ鋼材で造られたプレートアーマーを着ていれば、魔法障壁の共鳴により、普通に会話ができる。


 対して共鳴のできない防具、もしくは何も付けていない状態では、声がかなりこもってしまうのだ。


 支給されたその日に試してみたけど、低音でくぐもった男性の様な声は、ちょっぴり面白かった。暫く楽しんでしまったのは、言うまでもない。


 毎年のあるあるだと、研修指導の先輩も言っていたし、微笑ましく見守ってくれていた。


 もし敵に囚われてしまっても、個人を特定できないから良いという意見もあるみたい。ただ、この機能が私を戸惑わせる事になるのは、後のお話し。



 そしてもうひとつの欠点。これがなかなかに、切実な問題だったりもするのだ。


「それにしてもさぁ、この鎧って軽くて動きやすいけど、通気性が悪過ぎだよねぇ」

「それな! そんなに汗かいた感じがしなかったのだが、鎧を脱いだら中着がとてつもなく臭かったな」


「だなぁ。あれはなぁ、辛いぞぉ」

「たぶん、中着に問題があるよね。汗を吸い込みやすくする、特殊な素材って言ってたから」


「うむ、確かにそう言われていたな。しかし、どうにかならないものか? あの臭さは」

「うぅむぅ……慣れるしかぁ、ないのかぁ……」


 プレートアーマーが物凄く優秀なのは、とっても分かる。だけど、年頃の女の子のデリケートな部分に直撃するもので、思わず深いため息を吐く新兵なのだった。



 ◇◆◇クサイヨネ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ナントカナラナイ?◇◆◇



 そんな中で、私達は持参した小物入れを取り上げ、小瓶と綿を抜き取った。蓋を開けて、中の液体を染み込ませ、鎧の肩や背中部分に擦り付け始める。


 ――ふえっ? それは何故かって?


 王宮から支給されるプレートアーマーが、とっても優秀なのは分かるけど、決定的に可愛くない。


 とにかく防御に特化させ、一般兵ひとりひとりに支給するものだから、全てがお揃いだし、オシャレ要素が皆無だし。


 違うとしたら、胸部の突き出し具合くらいくらいなもので。


 ――うん! 視界の端に映る、カーニャのしたり顔がとってもウザい。


 お年頃真っ只中が集う、女性兵士職。そこで、任務中に唯一認められたオシャレが、この香水なのだ。


 兵士採用の通知がきた時、持参物の中に”香水”って書かれていたのは、とっても不思議ではあった。戦闘に役に立つとも思えなかったし。


 でも、実際にプレートアーマーを支給され、説明を受けた時には納得の声が、あちこちで上がっていた。もちろん私も頷いた。


「しかしだ、ヒヨリの香水はとても香りがいいな。なんかこう……適度にフルーツの、甘酸っぱい香りが鼻に心地いいと言うか」

「うぅむぅ、同感だぁ。どこでぇ、買ったのだぁ? 王都のどこかにぃ、売っているのかぁ?」


「ふえっ? そぉ? これはね、私が自分で作ったものだよ。私の家は、果樹園をやってるから」

「ほぉ、ヒヨリの自作かなのか。それは素晴らしいな。確かにこんな香りは嗅いだことない。これならば、鎧を着ていても直ぐに、ヒヨリだと分かるな」


「だなぁ。なかなかぁ、無い香りだからなぁ。直ぐにぃ、ヒヨリを見つけられるなぁ。それはそれでぇ、羨ましいぞぉ」

「そうかなぁ。えへへへっ」


 マリマリとカーニャの言葉に、ちょっぴり上機嫌な私。それに、もっと言ってくれてもいいんだよ?


 ――賛辞の言葉、ウェルカム! ウェルカム!


 ただ、この時の私は香水のせいで、自分自信があんなにも、あたふたすることになるなんて思いもしなかったのだった。

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