4.プレートアーマー!?

 私達は、個別に割り振られた収納棚から、ベージュ一色の中着を取り出した。研修初日に採寸された中着は上下一体となっていて、身体にピッタリなものに仕上がっている。


 オシャレ度なんて微塵も感じないのは、軍事用品だから仕方ないけど――うん、動きやすい。


 ただ、両側にいる二人の発育ときたら……


 私よりも年上で、背の高いマリマリは分かるとしても、同じ年で背の低いカーニャの突き出たお胸は私の倍で。何を食べたらそこまで成長するのか、聞いてみたくなる。


 そんな私の視線に気づいたカーニャのドヤ顔に、イラッとしつつ、目を逸らす私。


 ――私だって、まだまだこれからなんだもん! 多分。きっと……ね?


 今日から成長に良さそうなものは、積極的に食べてやろうと、強く強く思う瞬間だった。



 肌の露出が無くなったところで、次に取り出すのが、コスドーリア王国の誇る魔法製鉄技術で生産された、プレートアーマーだ。


 こちらは新調されたわけではなく、兵役を終えた先輩達からの使い回し。とは言え、使用感はあっても目立った傷は、ひとつも見当たらない。


 そのパーツの可動部をチェックしながら、足から装着。見る見るうちに足元から下半身、そして胸元まで組み上がっていったのだった。



 王宮から支給された鎧、プレートアーマー(完全防具)は、全身をスッポリと隠すものだ。


 特殊な素材で造られているために、ある程度の魔法や敵の攻撃なら、傷ひとつ付かない優れ物。しかも軽量で、全ての関節部分が改良されてて、凄く動きやすい。


 昨日も剣を振るって、不意に現れたモンスターを倒したけど……


 ――えっ? これ、ホントに鎧着てるよね?


 って感じだったし。


「見回り中にバウドッグが出てきた時は、本当にビックリしたよね」

「そうだな。だがまぁ、初めての戦闘にしては、上手くやれたんじゃないか?」

「だなぁ。ヒヨリなんてなぁ、三体も倒しちゃったしなぁ」


「確かに。剣術などやった事がないと言う割には、凄かったな」

「そっ……そっかなぁ? 偶然だよ偶然。初めての事だったから、必死になってただけだよ? えへへぇ」


「あの太刀筋は、ちょっとやそっとじゃ身につくものじゃない。かなりの訓練を受けてきたと見たぞ」

「そうだぞぉ。あの高々と挙げてぇ、頭上からの振り下ろす剣のなぁ、一撃は手練の証拠だぁ。すっごい師匠にぃ、教わったのかぁ?」


 そんなことを言われても、あんな田舎に、すっごい師匠とか剣の達人なんているわけがない。来るわけがない。


 さっきも言ったけど、東の領地は農村地。


 しかも、モンスターなんて滅多に出現することが無いところ。だから、領地所属の兵士は他の所よりもかなり少なく、そのほとんどが高齢者。


 おじいさんとまでは言わないけれど。


 もちろん騎士様もいるけど、現役を離れてかなり経つものだから、腰にぶら下げるのも騎士剣よりは汗ふき布。


 日頃は農作業のかたわら、時折領地を巡回するくらい。たまに出現するモンスターは決して強くなく、片手間で倒せるほどだし。


 そんな年中穏やかな所に、剣術の手練なんているはずもない。私の剣の特訓と言えば、農作業の隙間時間に、お父さんが剣術ごっこをしてくれたくらい。


 当然ながら、我が家も農家ですし。主に果樹園ではあるんだけど。


 だから剣を真上から振り下ろすのも、大地を耕す時に培ったくわの動きの応用で。それがたまたま役に立った――とは言わないでおこう。


 賛辞の言葉は素直に嬉しいし。


 ――それに私、褒められて育つタイプ。だから、もっと褒めてもいいくらいなんだよ?


 と思って二人を眺める。だけど伝わらなかったらしく、子首を傾げられてしまう。まだまだ目配せで意思疎通ができるほどの仲ではなかったようだ。


 うぅぅぅん……残念ざんねん。

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