3.兵士になった理由!?
この兵士職は、プレートアーマー(完全防具の鎧)を着用しているとはいえ、命をかけたお仕事。それだけに、お給金はかなりの高額だった。
三年間の任務期間で、贅沢をしなければ、十五年は暮らせるほどで。さらに任期が終了しても、二年間更新すれば、二十五年は食べるものに困らないと言われている。
しかも嬉しいことに、任期中は故郷の家族にも、様々な補償が出るという高待遇。
「うむ、やはり家族には、楽させてやりたいからな。私は合格するのに、三度も試験を受けさせてもらったからな。皆んなよりは、余計にそう思うぞ」
「だよね。 それに、”万が一”騎士団に入団出来たら、最高の親孝行になるもんね」
「だなぁ。ただなぁ、兵士になる以上になぁ、大変みたいだぞぉ」
カーニャの言う通りだ。騎士になるには、最初の三年間の任期中の戦果に加え、個人の品行も問われるみたい。
いくら強くても、王宮専属の騎士なるんだから、それなりの人格者で無ければならないのだとか。しかも、貴族作法も身に着けなければならないとかで。
だから、私達の様な地方からやって来た田舎の芋っ子より、王都育ちの都会っ子の方が、騎士になりやすいみたい。それ専用の教育を受けてるようだし。
――ふえっ? 私? もちろんそんな教育は受けてません。教えてくれる人もいなかったですしね。
私の住んでた東の領地は、王都から遥か遠い場所にある。北の領地からは四日間、西の領地からは六日間、南の領地からは九日間で王都に到着するところ、東の領地からでは十四日間の移動が必要になる。
王国最大の領地を誇り、王都の次に人口が多い場所。そんな所で育つのは、品行よりも野菜や果物の方だったりする。
――だって、農村地ですもん。
ちなみに、北の領地は観光地となっている。西や南の領地は鉱山があるものの、それなりに都会らしい。
騎士昇格の話をつつ、マリマリとカーニャに視線を向ける。すると、二人とも苦笑いを浮かべて首を左右に振っていた。
多分、私と同じで、兵士になることしか考えてなかったみたい。だから、その先の騎士団への入団なんて、想像もしてない様子だった。
ただ、私達のような地方出身者はそんな感じだったけど、王都出身者は、やっぱり何か目指すところが違うように感じる。
騎士になれば王都西側の居住区の、宮殿近くにある、高級住宅街に住めるとのことで。どうやらそれが、王都暮らしの子達には、ちょっとした自慢になるようだ。
そりゃまぁ、私だって騎士昇格制度のことを聞いた時は、ちょっぴり考えた。 とは言え、生まれ持った田舎っ子気質は隠しようもない。
それに、いまさら勉強なんてする気にもなれないし。体力や武力を上げるならまだしも、貴族作法を覚えるなんて考えただけでも嫌気が走る。
だからこそ、私の場合は”万が一”なのだ。
『背伸びしても、いいことは無いからねぇ』
故郷に居る時に、おばぁちゃんがよく言っいてた言葉。それに、元より騎士になれるなんて思っても無いし。
そんなことよりも、毎年二万人を超える応募の中から厳選された、ひと握りの新兵になれたんだし。今はそっちの方を、喜ばなくてはならない。
王宮兵士採用試験に応募出来るのは、成人になった十五歳から十七歳までの三回のみ。そこで落ちてしまえば後が無いものだから、家族のサポートは半端ない。
私の場合は、不採用になってからの一年間、家業の果樹園の仕事そっちのけで、兵士になるための勉強と基礎体力に費やした。
それも、全ては家族の協力があってのことだったから、そちらに集中させてくれて本当に感謝してる。
「採用通知が来た時は、家族五人でバンザイしちゃったよぉ。お父さんなんて、合格通知書を家の真ん中に飾るくらい、喜んでくれたもん」
「ふっ、私のところもだ。親父が興奮して、仕事場で自慢しまくったらしくてな、そこの親方さんが花束を持ってきてくれた時は、恐縮しっぱなしだった」
「ふっふっふぅ。私んとこはなぁ、家族がぁ、パーティーを開いてくれたなぁ。滅多に食べられないぃ、お肉がとってもおいしかったぞぉ」
多分、他の子達もきっと似たような、お祝いをしてもらったんだろうなって想像出来る。王宮広場で始めて会った時、皆んな良い顔してたしね。
「せっかく同じ時期に兵士になれたんだから、一生懸命お仕事頑張ろうね!」
「あぁ、そうだな。お互い、協力し合おうじゃないか」
「だなぁ。王国のためにぃ、やるぞぉ!」
そんな話をしながら、私たちは着替えの準備を進めるのだった。
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