第12話 エピローグ
話を聞く限り、俺は急に倒れたらしかった。
病院でそう教えてもらった。
ちなみに俺の小指は戻ることはなかった。
傷口は綺麗に塞がっているが、病院に着いた時からそうだったという。
それと目覚めると、アキが隣りにいた。
だから今回の経緯を教えてもらった。
まず、アキは自分の体質も知らずに無謀にも墓参りに行く俺のもとを訪れて、警告をするはずだったこと。
だがしかし、その途中にハプニングが起こり、記憶をなくしてしまったこと。
そして、そのせいでショッピングモールで雑魚幽霊に殺されてしまい、計画が頓挫してしまったこと。
全ては私の責任だとそう謝罪してきた。
「でもいくつか気になる点がある。どうして今までは大丈夫だったんだ?
俺は墓参り行くのは今回が初めてではないぞ?」
「それはだな。お前がその体質に突然なったからだな。千秋さんも言ってただろうけど、ヤギのそれは力じゃない。お前はただの餌なんだよ。釣りで言うところのミミズだ。食われる側なんだよ。」
理解はできるが、例えが悪いんじゃないか?
「アキは俺の力というか体質?知ってたのか。」
「気づいてはいたな。
ヤギといた時は記憶があんま無かったから詳しくは知らなかったが…。」
「そうか。」
「出来れば気づいてほしく無かったけどな。
そいつを持った奴らでまともに生きるやつなんていないからな。」
一応まともに生きるつもりなんだが。
「でももう一つ引っかかる。お前は何で助けてくれたんだよ。
そもそも俺がこんな体質だからって助ける理由にはならないだろう。」
「それはだな。実は千秋さんの頼みだったんだ。
そのーあれだ。ガキのお使いみたいなものだ。」
「そんな命がけのお使いを無償でやるのか?他に理由があるんじゃないか。」
「要らんところで、鋭いヤギだな。はぁ、そうだよ。弱みを握られてたんだよ。あの悪魔にな。」
「それってまさか。」
「私のブサイクな写真をスマホの待ち受けにしたんだよあの悪魔は。」
拗ねたようにそう言う姿は以前のアキそっくりで俺は病院だと言うのに盛大に爆笑してしまった。
かつて俺も同じ目にあったのだ。
だとするとこいつは今頃、弟子2号にでも鳴っているのかも知れない。
「あとアキの性格変わってないか?
もっとロリッとしていた気がするんだが…。」
「キリッとみたいに言うなロリコン。
まあ記憶が戻ってるからってのが一つだな。
後はお前の前であんまりそういう態度とりたくないんだよ。」
「何で?」
「ほら、あれだ。は、恥ずかしいだろ。」
「やめろっ!そんなニマニマした顔すんじゃねぇ!蹴るぞ、殴るぞ。」
「昔の方ならもう蹴られていたな。
今回は殴るだけだ。成長したんだな。」
「むしろこの前が退化していたんだ。」
「まあそうか。そうなるんだよなぁ。」
時系列が脳内でぐるぐる回って混乱する。
「なんか変だな、アキみたいな不確かな存在でもさ、俺の中じゃかなり大切だったんだよ。」
無くして気づくものだと分かった。
師匠にはまた会うことができたけど、消えちゃったときにはかなり苦しんだ。
人間の心はそう簡単に思い出を処理できないんだと知った。
だからやっぱり俺は人間が嫌いだな。そんでもって、この現実が大っ嫌いだよ。」
俺は破顔一笑してそう言ってやった。
ヤギの現実逃避。 庭くじら @aobahagoromo
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