第10話 死人の死人

死人に達者って言われることあるんだな。と感心していると。


師匠と交換で現れた件の幽霊さんと出会ってしまった訳だが、どうしたものか。


こちらを血走った目で見つめて息を切らしている。


「えっとー会話とかできる感じですかね?」

ダメ元で聞いてみた。


「KO・RO・SU!」


自信たっぷりだった。

こりゃあダメそうだ。


そいつの手から鋭利な刃物が生えてきて、戦闘意欲はすぐに失せた。


だから逃げようとして、あることに気づいた。

動けない。

俺の体は奇妙な空間に閉じ込められてるようで、その狭い空間の中でしか動けなかった。


あーこれはまずいよな。


幽霊が近づいてくる。

心臓の鼓動が高鳴る。


近距離戦闘も出来そうな刃物が近づいてきて、

またしてもKO・RO・SUだそうだ。


刃先が俺を一閃する。


一応、腕でガードしてみるが普通に痛い。

服は破れて血が流れる。

痛みが走って、思わずしゃがんでしまう。

だが、倒れることさえ許されない。

そいつは次々に襲いかかってきて、近くにあったパイプ椅子で応戦した。

一回の攻撃でぶっ壊れたけど…。


何度切られたことだろう。

腕はぼろぼろになって、体中が血まみれになっていた。


おい、師匠。特殊能力はどうした。目の前にいるこいつは俺の話すら聞かんぞ。


矛盾してやがる。全部の幽霊にできるわけじゃないのか。


また攻撃。遊び心からか刃を使わずに足蹴にされる。

近所のサッカーチームにでも入ったらどうだろうか。

ボール役は引き受けてやらんがな。


コロコロと転がされれば良かったんだが、現実の効果音はそんなに可愛くなかった。


4本目の歯が飛んだころには

自分の中で理性を支える糸が切れていた。 

痛覚もいつの間にか消えている。

自分の中のスイッチが切り替わって

もう全てがどうでもよくなった。


「アキはどっかいっちまうしよー。

夏休み課題は減らねえしよー。

師匠はだまって死んじまうしよぉー。

ノナがお兄ちゃんって呼んでくれないのも


それも全部お前のせいだったりすんじゃねえの?」


慌てたところで意味はない。

どうせ人間にできることなんて決まってんだ。


光のない目でそいつを見つめる。

「恐怖心なんてとっくの昔に死んでんだよ。」


「俺はさぁ、逃げてばかりなんだけどさぁ。

楽だし、困らないし、それでもさぁ。

逃げられない時にはそれなりに頑張るんだぜ。」


「まだノナからお兄ちゃんって呼ばれてねぇ訳だしよぉ。」

死ねないよなぁ。

今俺生きてるかも知らないけど。

でもなんか体が動いてるから大丈夫なんだよ。」


「俺の小指がさあ、さっき切れて絆創膏貼ったんだけどさ、変なんだよ。

よく見たら傷口が矢印マークになってるし。」


「でもお前に切られてるわけでもねぇからさ。

これが俺の能力って奴なんじゃねぇの?」


はいよーっと絆創膏を剥がして、空中でぶんぶん振り回してみる。


蹴られるけど気にしない。お前なんて眼中にねえんだよ。

そもそもまだ眼球があんのか知らねぇけどさぁ!」


「意外と俺は人気らしくてさぁ、もうできちゃったよ。

モテる男は大変だなぁクソ野郎。」


そう宣言すると、小指がグネグネ動いて手から指から自動的に落ちた。


コンクリートみたいな灰色の床に血がまみれの小指がコロコロと転がっていく。


頭が狂っていたからそれが無性に面白かった。


「あはあははははははははははは。見ろよ。転がってんじゃねぇか。」


元々なかったみたいに手の傷口は塞がれて、歪な手が完成する。


落ちた小指はグニョグニョ蠢いていた。


俺の笑いに気分を害したのか、黙れの一撃が飛んできて。


後方に腕が飛んでいった。


ただし俺のじゃない。そのアホ幽霊の腕だ。


なんと目の前には俺の知ってる幽霊ちゃんことアキが立っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る