第7話 ショッキングモール②

狭くて店が少ないと普段は豪語していたが、今は多いと嘆いていた。


それもそうだ。あのくらいの背丈の子を探すにはまず全店舗見なければならないし、タイミングによってすれ違って会えないことのほうが多そうだ。


おそらく清掃員も呆れるに違いない広さだった。


本屋、ゲーセン、100均、寝具屋、アクセサリーショップって言うのか?、ペットショップ、駄菓子屋、エスカレーター、フードコート、喫茶店、etc…


二時間。二時間探したけれど見つけることはできなかった。


パーティーメンバーは俺の奇行に呆れたのかフードコートでたこ焼きを食っていた。

なんか滅茶苦茶うまそうでムカついた。


ノナにだけ事情を伝えて、手伝ってもらったが、正直厳しい。


いつもなら諦めるところだ。何で諦めない?


自分で言うのもあれだが、なんの得もない。


言葉は聞こえないし、何かしてくれるわけじゃないし、むしろ暴力だらけだし。


絵本がもったいないからなんて言い訳も通用しない頃合いだが、探す以外の選択肢はなかった。


本当は人間はもっとすごいんだぞって思っていたかった。

1人で何でもできるようになりたかった。

でも、そんなふうになれたりはしない。


俺が全力で走っても、車に勝てるはずもない。

当たり前のこと。当たり前だけどそういう無理なこと多すぎて嫌気が差した。


そういうことを知ってしまってから現実は虚ろに見えた。

その現実を変えてくれるかも知れない道があったんだ。


幻想の世界。あいつはそれを見せてくれると期待していた。


俺はもっとそちらを見たい。心からそう思っていた。


***


更に1時間探した後、無理やり帰らされることになった。


「もしかしたら、先に帰ってるかもよ?」とノナに言われた。


信用ならないが、そもそも幽霊なんてものが信用ならないのだ。可能性はある。


そう思って拳を握りしめる。


エレベーターの待ち時間はなぜかとても長く感じて、浮遊感は俺をあざ笑うよう泣きがしてムカついた。


そして、次の瞬間に絶望した。


突然だが、エレベーターの天井を見上げたことはあるだろうか。


俺は天井を見上げることが多々ある。


気まずいとき、疲れているときなんかに。


それは気分を変えたい、視点を変えたいからであって、絶望したいからでは決してない。


そう思っていた俺の両目には、この光景はあまりにも鮮明に映った。


「見つけた。」


ノナが隣で口を手で覆って、肩を震わせていた。


もっと早く気づくべきであった。二時間の間にエレベーターに乗るべきだった。もしそうしていたら、結果は変わっていたかも知れなかった。


彼女はそこにいた。その両手足には刃物が刺さって天井に固定されていた。


時間が止まったようだ。心臓の鼓動さえも止まったように思えた。甘かった。


俺が生きていたのは夢の中じゃない。

偶然で人の命さえも軽々しく吹っ飛んでしまう絶望的な現実だった。

それを思い出した。

世界がまるで色を失ったかのように映る。

血すら流れていないのが酷く不気味で、吐き気が喉の奥から込み上げてきた。


あいつはどんな顔をしているのか。


見上げて、戦慄して、後悔した。


笑っていたのだ。涙を流して笑っていた。

ぎこちない笑みで「大丈夫だよ」って安心させるように笑っていた。


その雫が落ちることはなく、物を濡らすことはない。

ただ俺だけはその体温を感じられた。

そんな気がした。


彼女はそのまま動かずに消えた。


哀しい笑顔だけが目の裏に焼きついて眼球が記憶する。


見えない者には存在すら認識されない。


この日俺は、彼女の弱さを知った。


ただ存在していて、気づいてほしくても、相手にしてもらえないような。


健気な奴らだったのかも知れない。


俺たちはいつの間にか幽霊は恐怖の対象として刷り込まれていたけれど、奴らはもっと儚い存在で。


ただの不器用だったんじゃないかとも思えた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る