第6話 ショッキングモール

夏休みの八割は家で過ごすものだ。

先人達から教えられたわけでも無いのに自然とそうなってしまう。これはもはや人間の本質と言えよう。

くだらない駄弁を脳内演説会しているのは疑いようもなく俺だった。


なんでそんなことしているのか?

そりゃあ暇だからだ。


暇すぎるあまり、家族の買い物にまでついていってしまう事に名状し難き屈辱を感じていた。


パーティーメンバーを紹介しよう。


俺、ノナ、母、アキ 以上。


してから気づいたけど、紹介する必要ないくらいにポンコツメンツじゃないか。

戦力になりそうなのはアキだけだ。

ほら、神秘の力的ななんかそういうので。


車で小一時間ほど。小型のショッピングモールに到着する。ちなみに店もしょぼい。


家族で買い物に来てるのに店に着いた途端に願いを叶えた後のドラゴンボールみたいに四方八方へと散っていくのはどうなんだろうかと思う。

いやまぁ、効率重視でいいと思いますけどね。


勿論俺も例に漏れず。

足は自動的に本屋を目指していた。

暇であれば、いかに興味のない本でも読めると錯覚して、読書感想文用の本を適当に図書館で借りてきたのだが、数日経過してわかった。


「これ絶対読まないやつだ。」


ということで、少しくらい興味のある本を探しに来た。

アキもしっかり俺の後ろをてこてこしている。

時々靴の踵踏んでくるのやめてほしいと切実に願いつつ、彼女がやめてくれることはないんだよな。


本屋はショッピングモールにしてはショボい感じで俺の見立てだとここ数年で潰れると思うね(失礼。)

早速ライトノベルを見に行こうとして、アキに妨害された。

俺のお手々を引っ張るのである。

あら可愛い。


最近芽生えたこの感情は一体何⁉

もしや俺も栄光のロリコンロードを歩いてしまっているのだろうか。

駄目な大人の階段を登っているのだろうかと不安にならなかったのが不安だ。


「アキもそう思わん?」


俺の問いかけを華麗にスルーして、幽霊さんは俺を絵本コーナーまで連れてきた。

なるほど。

年相応に絵本を読んでほしいのか。

可愛いところもあるじゃないかとか思ってたら、勝手に封開けて文字を書き始めた。


「あれ?ナニシテルノコノコ。」

行動は可愛くなかった。


脳内停止。急いで周囲を見渡す。店員さんに見られてしまったら、大激怒は避けられない。

きっとこの絵本購入はもっと避けられないんだろうけどさ。


あーなるほど。

見本がないなら作ればいいという新たなる思考回路の開拓を手助けしてるのね!

素晴らしい!

適当に思いついた言葉で現実逃避していると


「みよじおもいだした」

そう教えてくれた。


もう驚かなかった。

非常識じゃんと言ったところで、そもそもこの子たちは存在が非常識であるしな。


「なんていうの?」


俺は口で言えば伝わるはずだ。

でもアキは字を書くことができるのだろうか。


「古川」


そう書いてから、急に頭を抑えて叫び始めた。

勿論声は聞こえない。が、叫んでいる人をそのまま無音にしたような。

テレビの無音ボタンを押したときみたいな違和感がそこにあった。


同時に俺も叫びたくなった。頭がイカれたのではない。

その名字と名前。古川千秋は師匠の名前と完全に一致してしまったのだ。


書店の中で二人して頭を抑える。

圧倒的におかしい客だが、気にする余裕もない。


深呼吸をして、せめて俺だけでも落ち着いてみる。

まだ心臓の鼓動早いが、どうにか復帰できた。


だから、アキの様子を見てみる。

声の聞こえない、音のない叫び。

虚しいくらいに伝わらない空虚な空間に閉じ込められたみたいで、とても気分が悪そうだ。

床に転がって「うああああああああ!記憶がああああ!」って叫んでいた。


「落ち着いて、大丈夫だから。」と必死になだめる。


彼女は3分くらいすると、叫ぶのをやめて、俺の方を、俺の顔を見上げた。


だが焦点は合っていない。なんか俺以外の何かを見ていそうな感じ。


そして、目玉をギョロッとさせて、口を間抜けそうにアワアワさせる。


そう、まるで信じられないようなものを見たみたいに。


「この記憶は何」絵本にそう書き殴って彼女は消えてしまった。


1人残されて、呆然と立ち尽くす俺。


「は?」


結果だけ貼り付けたように、アキは消えた。霧消した。


「アキ?どこいった。あき!」


理解できない。どこへ行った?まだ感動のエンドには早いはずだ。というかまだ何も起こっていない。


急いで彼女の消えた棚の絵本をかき分けて、捜索する。


店のものだという意識も無視して、周りの視線も無視して、ひたすらに。


それでも、見つけることはできなかった。


仕方なく、その落書き絵本を購入して、本屋をあとにした。


絵本は思っていたよりずっと高かった。


「こんな出費までして見つかりませんでした。じゃ洒落にならないんだからな。」

意地でも見つけてやろうと思った。もちろん絵本がもったいないからだ。


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