第4話 ヤギと幽霊③
あれから少し経って、分かったことがある。
警察への自首もかくやというほどの気持ちで両親に説明しようとしたら、「何言ってのあんた?女の子なんていないじゃない。アニメの見すぎよ。」と軽くあしらわれてしまった。
何かがおかしい。
俺とノナには見えているのに、他の人には見えてないのか。
ついでに言えば俺もノナもその子の声が聞こえない。
そんな不確かな存在は一つしか無い。
幽霊だ。
現実への心残りやら、恨みやらを持って生者を蝕む白いホワホワ。
そう考えればノナに触れられなかったのも腑に落ちる。
が、おかしな点が一つある。
何故か俺はその子に触ることができてしまっていた。
普通こういうのって触れませんがセオリーじゃないのか。
そのせいで俺ボコボコに殴られてたんですけど…。
これがどういうことのなのか検討しなければ…
考察パートに入ろうとしてたのをぶった斬って、階段下からノナが声をかけてきた。
「兄さんお父さんがアイス買ってきたけどいる?」
「いるー。」
「抹茶とバニラどっちがいい?」
「勿論バニラー。」
「りょーかい。」
アイスを食べに行こうと立ち上がる。
それと同時に幼女も立ち上がる。
そういえばさっき自首しに行くときも自動的に後ろをついてきていたのを思い出した。
「なぁ、アイス好きか?」
意外というか予想外というか、首を縦に振ってイエスの仕草を取ったのであった。
幽霊ってもっと不気味だから首をふるときもオーバーにヘドバンくらいするかと思ったのに。
ちょっと可愛らしい。小動物に見えてこないでもない。
このとき俺の脳内のいたずらスイッチがオンになったことは言うまでもない。
俺は机の引き出しの中からGのおもちゃを取り出して手に隠す。
「そもそも君ってアイスとか食えるの?」
両手を肩くらいまで上げてさぁ?のポーズをしてくれた。
すげえめんこい。(めんつゆ濃いの略称じゃないよ)
黒髪ロングが手からこぼれ落ちるふんわり感がたまらなくいい。
俺がロリコンでなかったことを本当に感謝してほしい。
「じゃあ食べいくか?」
自信満々にうんと頷く。すかさず俺はその子の目の前に両手を差し出す。
3、2、1。 オープン!
時間が止まったかのように静かな時が流れる。
人類が8割型嫌いであろう例の虫である。まあおもちゃだけど。
昔のノナがいたずら用に買ったらしいけど持ってるのも嫌だと(じゃあ買うなよ)言うことで無理くり渡されていたものだった。
まさか役に立つときが来ようとは。焦げ茶な彼らも喜んでいることだろう。
おもちゃを見て青ざめて幽霊さが増した幽霊。
その表情を堪能していた俺。
***
ところで皆様。ポルターガイストはご存知だろうか。
幽霊が物を浮かせて好きなように操れるというアレだ。
俺は今部屋中のものというものを投げられて困っています。
対処法がわかる方がおりましたら、早急に教えていただきた…痛っ。(本直撃)
あの後顔を信号機みたいに青から赤に変えて羞恥心一色に染め上げられた幽霊ちゃんは俺にリアル倍返しを実行していた。
まずは部屋中の本が空中を舞って俺を襲った。痛いし本が傷ついてしまうじゃないかと言っても伝わるはずもなかった。
一応こちらの言語は理解していたはずなんだけどな…
次に部屋のタンスにしまうのが面倒で棚の上に積み上げられていた衣類によって両腕両足を縛り上げられ、流行最先端のファッションの芋虫へと成り果てた俺の上に憤慨しながら座っているのが現状だ。
「アイス食べに行きたいんスけど。」
ひとりごちる。
その一言にピクッと反応してこちらを振り向いた。
慧眼無双な俺が見るにアイス食べたがってるな幽霊さん。
どうでもいいけど慧眼無双って滅茶苦茶かっこいい。
とか思ってると幽霊さんがポルターガイストで散らかしまくったラノベを手にとってひらがなに可愛く丸をつけて見せてくれた。
「ちゅうにびょう乙」ってかいてあるなぁ。
心が読めるのか俺の思考が浅はかなのかのどちらかだ。多分後者ッスね。
それはそうと、こうすれば会話ができるのか。
「君頭いいね。」
そっぽ向いててれてれしてた。
会話手段を得て嬉しかったらしく、その会話の一端を担ってくれて感謝の気持を込めたのか、ラノベのイラストを眺めだした。
「あーそのイラストは見ないほうが…」
案の定、顔面信号機は真っ赤に点灯してしまった。ついでに俺が保身用の警鐘を鳴らすが、芋虫野郎(物理)なので逃げることはできなかった。かなしいかな。
セクシーなお姉さんはまだ早かったか。もう一度ラノベの文字を拾って律儀に丸をつけて見せられる。
「ころす」だった。死刑宣告。あれまぁ。
追いポルターガイストはちょっときつい。芋虫が蛹に進化した。望んでないんスけど。
結局アイスにありつけるまでの2時間くらいはこのままだった。
体中が激痛に襲われたのは言うまでもなかろう。とくに腰が。
別にオチってほどでもないけど、冷凍庫にあったアイスは抹茶味だった。
ノナのやつ人に訪ねておきながら結局バニラを選びやがったらしい。許せん。
そんなことしたら幽霊ちゃんが激おこぷんぷん丸で我が家にムカ着火ファイヤーするんじゃないのと思ったが、頬を抑えて「おいひー」ってやってる。
あら可愛い。ってか君食べれるのね。
この後一口くれた。まあそれ俺のなんですけどね。
しばらく2人でというかほとんど幽霊さん一人でアイスをつついていると、急にラノベを使って質問してきた。
「お前・な・ま・え・なん・だ・?」
俺?俺の名前は八木っていうんだ。草食ってめーめー言う方じゃないぞ。
いや、めーめーは羊だっけか。
「や・ぎ」
そうとも。
「や・ぎ」
そうです。気に入ったのか何度も丸をつけてニコニコしていた。可愛い。
そう思ってたのだが、「変・な・の」と言われてしまった。
散々バカにされてきたからもう慣れっこだけどな。
「そうだ。名前、何ていうの?」
こちらが名乗ったなら次はそちらの番だ。
彼女はペンギンさんのついた青ペン(ペンギンさんが邪魔で書きにくい)で丸をつけた。
見ていた俺は顔色がどんどん青くなる。
気分は最悪だ。その単語は駄目だ。脳内が腐っていく気がする。右脳と左脳が分離するようだ。眼球が反復横跳びで忙しい。視界の情報を伝えたくなくて血管をブチ切りたくなる。
そこには「ち・あ・き」。とあった。
僕の人格をぶち壊すには十分すぎるその三文字は、数年前に死んだ師匠の名前だった。
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