第3話 ノナさんは見た!

さっきから兄さんの部屋が騒がしい。


基本的に温厚な平和主義者と吹聴しているのに朝の8時から部屋でプロレスごっこだろうか。


夏休み開始早々一人で騒々しいなんて非常識の塊である。


仕方ないから注意しに言ってあげる。仕方ないからだから。迷惑だからなんだよ?


別に他意なんて無いから。


そう思って、兄さんの部屋を開けた。


「兄さーん。朝っぱらからうるさいよー。って、え?えっ?マジで何してんの?」


驚くべきことに兄さんは集団リンチに遭っていた。


同じ顔の幼女3人に囲まれて、土下座している兄さんを蹴り飛ばしている。


兄さんは「あっ、痛い!痛いメウ! ごめんなさいメウ! やめてほしいメウ!」と泣きながら人格崩壊を起こしていた。


私が部屋に入っていくと、兄さん集団リンチ隊は一瞬動きを止めて、みんな同時に私を見た。


「え?何この空気。」


幼女にボコボコにされている兄とそれを目撃してしまった私。


帰りたい。そっとこの扉を閉めて帰りたい。そう思った。


するとその刹那。リンチ隊は私に飛びかかってきた。

ヤンキーで言うところの「何見てんじゃゴラァ!」ってやつだ。


勿論帰宅部の私は抗うすべなど持っていない。


「うわっ!お兄ちゃん助けて!」


そう叫んだ。脱兎のごとく駆け抜けた兄さんは3人中2人を弾き飛ばした。幼女なのに手加減なしだ。


普段は『兄さん』と呼んでいるからこうして『お兄ちゃん』と呼ぶと凄まじい力を発揮するのだ。って説明して思ったけど、滅茶苦茶なアホだこの兄さん。

かなり恥ずかしい。


それはそうと、3人中のあと1人。残りの1人に私は殴られる。


下から思いっきり腹にパンチを決めてくる。


「女子を殴っちゃいけないんだぞこのクソガキめ!」


思わず目をつぶり、衝撃に備えて身構える。最後の悪あがき。


「痛、くない?」


「あれ、痛くない。」


今の一撃は私をかすめただけだった?


「いや、違う。

私の体を貫通してるんだ。

なにこれ。すごいっ!私の能力?

私の物語始まっちゃうの?私主人公なの?! 

もう兄さんとかどうでもいいかな。

かっこいいイケメンとかに囲まれちゃうのかな。アハハハ。」


そんなひどいこと言わないでって足元で兄さんがいじけてるけど無視無視。


私を殴ろうとしたクソガキはいつの間にかひとりになっていて、不貞腐れたように私を眺めていた。

悪いのそっちなのに。


それはそうと、廊下で体育座りして、「お兄ちゃんはお兄ちゃん失格だあって」嘆いている兄さんに事情を聞いた。


「私の部屋の前で泣かないでよ。その無駄にあざといのは何なんだよ。」とか思ったけど。


やさしいノナ様は兄さんの隣で体育座りして状況を聞いてあげるのでした。私神!



聞けば兄さんは知らぬ間に知らぬ幼女に知らぬうちにボコボコにされていたらしい。

正直、意味がわからない。


「んで?兄さんその子どうすんの?なんか2人どっかいっちゃったけど。」


「それなら問題ない。」


「どゆこと?」


「あの子達はもともと1人なんだ。おそらくこの幼女は分身したんだろう。」


兄さんはこぼした麦茶の後始末をしながらそういった。

何でちょっと得意なんだよムカつく‼

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