第21話 イチャイチャしないと出られない部屋

 浅が……謎のJK"リンゾウ"によって俺と有川さんは閉じ込められた。

 しかも、イチャイチャを見せないとどうやら出られないらしい……。


 なんだよ……それ。


「ふざけるな! そんな悪ふざけをやめてとっとと出しやがれ!」


 俺はスマホの画面越しで声を荒上げた。

 しかし。


『くっくっく、どうやら立場を理解していないようだな』


「なんだと」


『君達は外部からの干渉がなければ出られない状況にあるのだよ』


 確かに古倉庫の扉は棒か何かで引っ掛かっていて、出るのは難しい。窓もないし外部からの助けがない限り出られない。

 だけど。


「下校時間になれば見回りで先生とか来るだろ。そん時助けを呼べば……」


『くっくっく』


 リンゾウが不気味に笑い出した。


『見回りの先生はここまでこない、なぜなら……』


「え?」


『まだこの部活は正式なものでもないし、古倉庫は正式な部室でもない。つまり、こんなところにまで先生は見回りには来ないぞマヌケ』


 確かにそうだ……下校の時の見回りはいつも校内と体育館、それにグラウンドだけ。こんな使われていない倉庫にまで来ない。

 ちくしょう。


『つまり君達の出る方は私にイチャイチャを見せる以外にないのだ! ハハハ!』


 ムカつく笑い方しやがって……でも実際参ったな。

 こいつの言う通り俺と有川さんがイチャイチャしなきゃ出られないみたいだぞ。


「どうする? 有川さん?」


 そう有川さんの方を向くと——。


「あわわわわわわわわ!!」


 泡を吹いていた。

 俺は初めて泡を吹く人間を見た。


「有川さん!!!!」


「あわわわわわわわわわ……」


 有川さんがこんなになるのも無理はない。

 男性が苦手な人が突然、男性とイチャイチャすることを強制させられるなんて地獄以外の何者でもない。

 

 こんな状態の有川さんとイチャイチャどころかまともに会話もできないだろう。


 参ったな……どうすればいい。


 どうしたらこの地獄を抜けられる!!


『さあ、悩んでいても何も始まらない。さっさと襲っちまえ。それとも襲う勇気もないか、チェリーボーイ』


「誰がチェリーボーイだよ!」


 ちくしょう。こんなふざけた茶番さっさと終わらせたい……仕方ないか。


「有川さん!」


「え……」


 ここはリンゾウの言う通りにやるしかない!


 そう思い、有川さんに近づき、肩に手を置いた。

 そして有川さんを見つめた。

 

「え?」


 長い前髪でよく見えてなかったが、有川さんって意外と美形だな。浅上に負けず劣らずな綺麗な瞳をしている……。

 なんだろう。浅上は美人という感じに対して有川さんは可愛い系……? そうおっとり系の可愛い感じがする。

 前髪が長く暗い感じという印象から一転、実は可愛いというギャップはまさに俺好みだ。

 あれ? やばい、そう思うと突然なんか緊張してきたぞ。 あれ?


 数秒見つめ合っていると、突然、


「あ、あ……」


 有川さんの顔が赤くになり、そして


「きゃーーーーー!!」


「ゲフッ!」


 悲鳴を上げながら思いっきり俺にビンタをしてきた。


 その瞬間俺は悟った。


 あ、これイチャイチャすんの無理だ。


 ——と。

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