第20話 気まずい部室

「はぁ……」


 ため息をつく。

 ため息は幸せが逃げると言われているが、実際はリラックス効果があるというのをネットでみたので頻繁にしている。信憑性は定かだが。

 しかし、そのリラックス効果のため以外でも、最近はため息をすることが増えた。


「はぁ……」


 古倉庫の前でもう一度ため息をした。

   

 浅上に純情な感情を弄ばれて以降、俺はエロ部に行きたくなくなっていた。というより浅上に会いたくなかった。

 だって本気であの時、浅上に心を奪われていたし、何よりまじめに"やろう"としていた。そんなバカな自分を思い返すから嫌な気分になる。あと再び2人きりになった時、浅上への殺意を抑える自信がない。恐らく俺は生まれて初めて女子に暴力を振るうかもしれない。

 まあ、そんな度胸もないからしないけど。


 何より、行くのが気まずいのだ。

 でもサボったら俺がエロ漫画を読んでいたことをクラスにバラされるし、結局来るしかない。

 不憫だぜ。


 そう思いながら、扉を開けた。


「ぴゃっ!!」


 開けた途端、短い悲鳴みたいな声が響いた。


「あ、なんだ……松原くんか……」


 有川さんがイスに座り1人で本を読んでいた。


「有川さん、あれ、1人?」


「うん……まだリンカちゃん来てないの」


「え? でもとっくにホームルーム終わったけどな。トイレにでも行ってんのかな」


 俺もイスに座り、朝買ってきたジャ○プを読み始めた。


「……………」


「……………」


 互いに読書が始まる。

 しかし、なんだろう。気まずい。

 浅上がいれば普通に話せるけど、2人きりだと喋りづらい。友達の友達という曖昧な関係だからか? 

 あーなんか息苦しいな。会いたくはないと思っているけど、早く来てくれ浅上!!


「……………」


「……………」


 ダメだ。女子と2人きりで気まずさがフルスロットルしてる。

 ここは紳士として俺から何か話しかけよう。

 そうだ。あくまで同じ部活の仲間として!


「有川さん」


 そう思い名前を呼んだ途端、


「ぴゃっ!!!」


 有川さんは突然飛び上がり、俺と少し距離を取った。


「な、なんですか……?」


 怯えた瞳で俺を見る。

 あーー忘れていた。

 そういえばこの子、男が苦手だったな。

 急に名前を呼んだら怖いよな。

 しかし、防犯ブザーを構える必要はあるのかな? そこまで警戒する必要ある?

 俺めちゃくちゃ危険視されていない?


「ひ、ひとまず落ち着こうか」


 俺は両手を上げて彼女を抑止させた。


「す、すいません」


 有川さんは再び席に着いた。防犯ブザーを手にしたまま……。

 これじゃあ気軽に話せないけど、まいっか。


「な、なんですか?」


「あ、いやなんの本読んでいたのかなって」


「えと、戦国時代の武将の本です」


「そう言えば、有川さん歴史好きだったね。戦国時代が好きなんだね。俺も歴史だと戦国時代が1番好きなんだ」


 戦国○双、めちゃくちゃ遊んだからな。


「そうなんですか!! いいですよね!戦国時代! 魅力のある武将が沢山いるし、それぞれの戦にドラマがあって! まさか松原くんも戦国ファンだなんて、嬉しいです! 」


 先程とは打って変わって有川さんが目を光らせながら俺を見つめた。

 警戒心が消えて、少し距離が近くなっている。この話題は正解みたいだ。

 にしても反応変わりすぎなのは違和感しかないけど。


「好きな武将は誰なんですか?」


「好きな武将は…………真田幸村かな?」


 槍というリーチの長い武器とメインキャラなだけあって単純操作で扱いやすかったしな。


「信繁!!! 私も信繁大好きです!」


「信繁?」


 なんだか知らない名前が飛んできた。


「大阪の陣の散り際はもう武士らしくて最高ですよね!」


「あ、ああ」


 どうやら幸村の別名らしいな。

 まあ、有川さんと共通の話題ができてよかった。まさか戦国○双をやっていてよかったと思える時が歴史のテスト以外であるなんて思わなかった。


「あ、よかったら今読んでる本を一緒に読みますか? ちょうど大阪の陣の話で———」


 有川さんが俺に本を見せた瞬間、俺のスマホから非通知で着信が入る。

 なんだろうと思い、出てみるとビデオ通話に切り替わった。

 画面には変な仮面を被り、うちの高校の制服をきた謎のJKが映っていた。

 というか謎でもなんでもないけど。


「なんだこれ?」


 俺は有川さんにも見えるように画面を傾けた。


「これって……」


 有川さんもこのJKの正体に瞬時に気づいた。

 画面を眺めているとその謎のJKが突然話し始める。


『くっくっく、はじめまして。私は"リンゾウ"』


 声を低くして話すがバレバレである。


「こいつ何したいんだ?」


「さ、さあ?」


『突然だが、今から君達には脱出ゲームをしてもらう』


「「脱出ゲーム?」」


 何言ってんだ? 脱出ってこの古倉庫からか?


『この古倉庫は私の力で今は出られない状況にある』


「は?」


 扉を開けようとするとびくともしなかった。

 引き戸だから棒みたいなやつ引っかけたな。


「何が目的だよ!」


「どうやったら出してくれるの?」


『くっくっく。唯一出られる方法は一つ……それは……』


 それは……?


『私にイチャイチャを見せることだ!!』


「「え?……」」


 こうして浅……リンゾウによる過酷な脱出ゲームが始まった。



 

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