第19話 どうてい 卒業

「ねぇ、s○xしてみない?」


「え?」


 突然のお誘いに俺の脳は一瞬で蕩けた。


 s○x? あれ? そもそもs○xって何だっけ? こんな簡単にできるものなのか? "指スマ"みたいな感じで暇つぶしでやるもんなのか? もっと実行するのに難易度が高いものじゃなかったかな? 現実的にも、社会的にも。というか俺らまだ高校生だぞ。そんなことしていいのかよ。もっと大学生とか社会人になったらするもんだろ。でも、今の時代高校生でも当たり前のようにしているしな。俺のクラスの陽キャグループも普通にやっているし。何よりヤリチンとかじゃなく、普通に恋愛しているカップルもやっていてもおかしくないだろう。そうか……そう思うとs○xって別に普通のことなのかもしれない。一種のスポーツって言っている人もいるし、案外俺が恥ずかしいと思っているだけで、世間では普通に"バトミントンしようぜ"みたいな感覚なのかもしれない。

 ミントン感覚で男女が戯れているだけなのかもしれない。

 そうだ、きっとそうだ。

 だったら断る理由もないな!


「あ、ああ。いいぜ!」


 俺は完全にバグってしまった。


「そ、それじゃあ……しよっか……」


 視線をずらし、照れながら浅上が言う。

 なにをそんなに恥ずがっているんだ? スポーツやぞ!

 

「よし、まずは準備運動からしよう。とりあえずそこに置いてあるマットで——」

 

 倉庫に置いてあったマットの方に移動すると、背後から布が擦れる音が聞こえた。

 振り向くとそこには……。


「あ…………浅上……さん?」


 制服を脱ぎ、下着姿をあらわにした浅上がいた。

 

「あんま……ジロジロ見ないで……」


 何で脱いでいるの?

 いや、んなことどうでもいい!!

 雪のように白くて美しい肌に、ウエディングドレスのような神聖な肌着、何より目にいくのはめちゃくちゃ形の整っていて、大きくもなければ小さくもない、完成させられたフォルムをした……おっぱい。

 半裸の彼女を見て俺のバグっていた脳は改めて状況を理解し、興奮へと変化した。


「アバババババ……」


 人語を喋れないほどに。


 やばいやばいやばいやばいやばいやばい。

 本当に今から俺はあの性交したい女子ナンバーワンの浅上と致すのか? ちょめちょめを!! どこにでもいるようなモブみてぇーな俺が? そんな逆転サヨナラホームランがあっていいのかよ!

 いや、あっていい!! むしろあるからこそ、人生は捨てたもんじゃないんだ!


 乗るしかねぇーー! このビッグウェーブに!!


「よし!」


 俺は覚悟を決めて、制服を脱いだ。

 いきなり全部脱ぐのは恥ずかしかったのでワイシャツまでは脱がなかった。

 でも第三ボタンまでは開けた。

 その方がなんかエッチかなと思って。


 こうして俺の準備が整うとゆっくり浅上が寄ってきた。


 昨日までエロ漫画を読みながらぐへへと笑っていた浅上はもうそこにはいなかった。


 初々しくも色っぽい彼女が俺の隣にいた。



「じゃあ……」


「うん……」


 お互い最低限の言葉を交わして、マットの上に寝転がった。


 そして……お互い、見つめ合う。


「松原くん……」


「浅上……」


 互いの名前を呼ぶ。


 えと、まずどうするんだろう。

 キス? チュッチュすればいいのだろうか? いや、前戯が先か? そもそも前戯ってなんだ? 遊○王の仲間か? 俺のターンとか言ってデュエルすればいいのか?


 あれ? そもそも、エッチってどうやんの?

 

 めちゃくちゃドキドキしながら俺はパニクっていた。

 すると、


「ん……」


 浅上が目を瞑り、顔を近づけてきた。

 

 おいおいおいおいおい。

 これって世に言う所のキス待ち顔ってやつか? 

 てか……というかやはり……こんな間近で見て改めて思う。浅上ってすげぇ可愛いな。

 まるでアイドルというか女優みたいだ。そんな子と俺は今、キスをしてその先も経験しようとしている。

 これが俺の人生のゴールなのかもしれない。

 目を瞑ると自分の人生のエンドロールが流れてきているもん。

 ここでようやく俺は終えることができるのかもしれない……。

 

 エンディングに向かって俺は目を瞑り顔を近づけた……。


 母さん産んでくれてありがとう。

 童貞だった自分にさようなら。


 そして、非童貞の自分へ


 おめでとう。


「浅上——」


 ………………


 だが———。


「………っぷ!」


 しかし———。


「ははははははははは!!」


 次の瞬間、笑い声が倉庫内に響いた。


 思わず目を開けるとそこには俺の顔を見て爆笑している"いつもの"浅上の姿があった。


「え?」


 状況を理解していない顔をしていると、浅上が笑いながら告げる。


「めちゃくちゃ本気にしててびっくりしちゃった。するわけないじゃない。ただの実験よ。実験」


「は?」


 どういうことだ?


「この雑誌に載ってた女性からのセッ○スの誘い方を実践してみたの。こんなんでうまくいくわけないと思ったけど、男って単純だね。まさかあんな雑な流れでも引っかかるなんてね」


「へ?」


 つまり先程までの一連の流れは全て……この女の演技だったということか?

 それに俺はまんまと騙されていた……?


「いやーでも……っぷ。松原くんのあのめちゃくちゃ鼻の下を伸ばした顔は……傑作だったな。はははははは!!」


 盛大に笑われる。

 そんな浅上を見て俺は……。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぉ!!!」


 あまりの恥ずかしさにより悲鳴を上げた。

 そんな俺を見てずっと浅上は笑い続けていた。


 この女は性癖だけでなく、人としても……終わっている。

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