第16話 ヤサイマシマシエロスクナメ下ネタスクナメ二郎マシマシ

 部活終了のチャイムが鳴った。


「お、もうこんな時間、私たちも帰ろうー」


「そうだな」


「うん……」


 古倉庫を出て、早めに学校を出ようとする。

 少し時間が経つと校門は部活帰りの生徒でごった返すのだ。

 その人混みを避けるために俺達はいつも早めに出ていた。

 

「みんな来る前にちゃっちゃっと帰ろうぜ」


「そうだね……人混みになると私……死ぬ」


 そう有川さんが言う。

 性格的に人が沢山いるところは苦手なのだろう。

 ちなみに浅上と有川さんは家の方向が同じ、というか隣同士なので必然的に帰り道が同じだが、俺は2人と反対方向に家がある。だからいつも校門で別れていた。一緒に下校したい女子ナンバーワンである浅上と一緒に帰っているところを誰かに見られたら面倒くさいこともなるし、俺的には都合が良い。


「んじゃ」


 今日も短い挨拶を言って普通に校門で別れようとした。

 だがしかし。


「待って、松原くん」


 浅上が俺を呼び止めた。


「なに?」


「部の親睦を深めるためにこれからよかったら3人でご飯食べ行かない?」


「「え?」」


 俺と有川さんが同時に驚いた。


 こうして浅上に言われて、半強制的に俺達は夕飯を食べることになった。

 それも浅上、オススメの所で。

 浅上がオススメする場所ってどんな所だろうか。

 浅上は中身は"アレ"だが、家は割とリッチらしいし、高級フレンチ料理店とかかな?

 まずいな、俺金ないぞ。予算は最大800円くらいだぞ。

 高い所だったら素直に土下座して奢ってもらおう。

 そんな風なことを考えながら、浅上の跡をついていく。

 すると。


「ここよ」


 学校から少し歩いた所にあるお店の前で立ち止まる。


「え、ここ?」


 意外なお店で目を疑った。


「うん、ここ! いやーナルちゃん、久しぶりだね!」


「うん……今日、胃のコンディション良いから全然行けると思う……!」


 お店の前で2人はノリノリな感じで髪を束ね始める。

 なんかめちゃくちゃ小慣れている。2人とも以前から通っていたのかよ……このラーメン屋に……しかもここ……。


 "二郎系"!!


 お店の看板にデカデカと野菜が山盛りに盛られたラーメンが写っている。


 圧倒的二郎系じゃないか!

  

 ラーメンはあっさり塩ラーメン派の俺にはきついぜ。

 しかし、ウキウキしている2人の女子を見て引き下がるわけにはいかないよな。

 

 覚悟を決めて店内に入った。


「……らっしゃい」


 店内には無愛想な店主と無言でラーメンを食べる男達がいた。

 すげぇ……出された餌を無心に食べる養豚場の豚ようだ。

 こんなむさ苦しいラーメン屋に浅上と有川さんという女子が乱入してきても見向きもせずにラーメン食べている。

 店の雰囲気に恐怖を覚えた。


 食券を渡し、俺達はテーブル席に着いた。

 意外とリーズナブルでお財布には優しかった。

 しかし、初めて食べるな、二郎系。一体どんな味がするんだろう。

 

「ニンニク入れますか?」


 味を想像していると店主が俺達に向かって聞いてきた。

 明日も学校あるし、ここは断ろう。


「あ、いやいりま——」


「「アブラナシヤサイマシマシカラメマシニンニクスクナメ!」」


 突然、浅上と有川さんが呪文を唱え始めた。

 何言ってんだ……?

 呆然としていると店主が、俺の方を睨み


「そちらは?」


 と聞いてきた。

 2人の呪文に呆気に取られて、思わず俺は「同じので」と言ってしまった。


 すると店主は無言で厨房へと戻っていった。

 なんだったんだ。今のは……?

 よくわからないが、トッピング注文だったのだろう。野菜マシマシを頼んでしまったが、まあ腹減ってるし大丈夫だろう。

 イケるイケる、男子高校生の食欲は伊達じゃない!


 しかし、その数分後……


「アブラナシヤサイマシマシカラメマシニンニクスクナメ3丁お待ち!」


 そんな俺の予想を遥かに超える量の野菜が盛られたラーメンがテーブルに並べられた。


「うっ……」


 見ているだけで胃もたれしそうだ。

 そんな俺とは対照的に、


「うわーー! 美味しそう!」


「うん……そそる……」


 デカ盛りラーメンを前に女子2人は目を輝かせていた。


「まじかよ……」


「それじゃあいただきまーす!」


「い、いただきます……」


「あ、松原くん!」


 苦しそうな表情を浮かべている俺を見て、浅上が声をかける。


「まあ男子高校生だからこれくらいは余裕で食べられると思うけど、一応忠告しておくね」


「え?」


「このお店、もし残したら店主にめちゃくちゃ怒鳴られるから気をつけてね」


「まじかよ……」


 店主を顔を覗くと俺を見てめちゃくちゃ睨んでいた。


 あのゴツい顔の店主に怒鳴られたら泣く自信しかないぞ。

 この女子2人の目の前でそんな俺の情けない所を見せるわけにはいかない。

 俺の小さなプライドが腐ってしまう!

 

 負けるわけにはいかない!!


 覚悟を決めて俺は箸を持ち、この怪物とも言えるラーメンに挑んだ。


 俺と二郎系ラーメンとの死闘が今、始まる……!!


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る