第15話 刀と鞘

 有川さんを加えてこうして、部員が3人揃った。

 あとは顧問の先生を見つけるだけなんだが……。


「松原くん……"風俗嬢"ってどう思う?」


「あ?」


 古倉庫でエロ漫画を見ながら聞いてきた。しかも真面目な顔で。


「どうしたんだよ、突然」


「いや、風俗嬢って一周まわって純愛ものが多いよね」


「は?」


 相変わらず何言ってんだろう。

 

「風俗嬢が本当の愛と出会う展開を何回も見ている気がする……心が高まらないし、純愛モノは私の好みではないけど、なんだろう……なんか見ちゃう。恐らく普通に好きなんだと思う」


「そうなんだ……」


 わかる気もしないでもない。

 そんな純粋展開は俺好みでもある。

 何より……純粋そうに見えて実はめちゃくちゃ変態なお前と真逆だしな。


「リンカちゃん、風俗嬢って?」


 歴史の本を読んでいた有川さんが浅上に聞く。


「簡単に言うと娼婦ってことだよ」


「あ、なるほどね」


 娼婦という言葉は大丈夫なのか。

 有川さんは一般用語だとショートしないらしいな。

 なるほど。


 ……と俺達3人は放課後になると古倉庫に行き、こうしてだべっていた。

 部員がせっかく増えたがやることは特に変わらない。変わらないのだが……。


「そう言えば松原くん、最近普通の少年漫画しか読んでないけどどうしたの?」


「は、は? 何言ってんだよ。俺は少年だから少年漫画しか読んでねぇーよ! ったく……」


 再び漫画を見始める。

 有川さんが来てから古倉庫で堂々とエロ漫画が読めなくなった。


 なぜなら恥ずかしいから。


 普通に考えて女子の目の前でエロ本とかは見れない。浅上は別だけど……。

 とにかく俺に残っていた羞恥心が、ギリギリまともな男子高校生として踏みとどめてくれていた。

 まあでも、んな羞恥心は所詮は無駄である。

 だって。


「そう言えば松原くんって"授乳プレイ"好きだったよね? この倉庫で見ていたエロ本にもそういう系あったし」


 この女が無限に俺の性癖を暴露するから。


「授乳プレイ?」


「乳を吸うのよ」


「赤ちゃんが?」


「いや、ある程度成熟した男性が」


「なんで?」


「それが"エロ"だからね!」


「あわわわわーー!」


 有川さんはショートした。


 いつもこんな感じの会話が繰り広げられ、最後は有川さんがショートする。

 有川さんも忙しいな。

 


「ごめんなさい……私やっぱりエッチなのが苦手で……」


 気を取り戻し、俺に頭を下げる。


「ははは……」


 俺は苦笑いをした。

 しかし、あの浅上の幼馴染みなのにどうして苦手なままなのだろう。

 普通なら耐性ついていてもおかしくない気がするが。

 気になり俺は有川さんに聞くことにした。


「有川さんはどうしてそんな下ネタに弱いんだ?」


「え?」


「だって、浅上といたら嫌でも毎回言われるだろ? なのにどうして苦手なんだろうと思って」


「女子の大半が下ネタ嫌いだと思いますけど……」


 ごもっともな理由が返ってきた。

 確かに女子は下ネタが嫌いだ。

 しかし、有川さんのは嫌いというより"弱い"感じがする。

 エッチな言葉で今どきあんな気を失うような過剰な反応するだろうか。

 否、今時のJKは絶対しないだろう。

 もっと他に理由があるはずだ。


 そう怪しんでいると横から浅上が話を挟んだ。


「ナルちゃんは苦手というより、性を意識しすぎているんだよ」


「えっ!!」


 浅上の言葉に有川さんがビクッと反応した。


「意識しているからこそ、他の人より余計に頭が働いてショートしちゃうの。つまりナルちゃんは結構エッチな女なんだよ」


 ニヤけ顔が美しい女子ナンバーワンの浅上が不敵にニヤけながら言った。


「そ、そんなことな、ないよ。本当に苦手なの……」


「いや、私の目は誤魔化せないよ。ナルちゃんは意外とエッチな一面があるはずよ!」


「な、ないよ……そんなの。リンカちゃんみたいに大人の本とか見ないし……」


「ふふふ、それはどうかな? 私知っているんだからね。私の家に来た時、密かに私のコレクション軽く見てるの……」


「あ、いや、それは……」


 有川さんが慌てた様子を見せる。

 あれ? まさか図星なのか?


「確かあの時見ていたのは……」


「あわわわ〜〜言わないで〜〜」


 浅上の口を塞ごうとするが、地味に興味があったので俺は耳を傾けて浅上の言葉を聞いた。


「刀と鞘のイチャイチャ本」


「え?」


 あまりにも聞き慣れない単語に耳を疑った。

 刀と鞘のイチャイチャ本? 何かの比喩か?


「あとはトッポとポッキーの寝取られ本とかかな」


 ごめん、何言ってんのかわかんねぇーや。


「あううう」


 恥ずかしそうにする有川さん。

 そんな有川さんを見て俺は思った。


 この女もやべぇーと。




 

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