第13話 義妹しか認めない

「さ、さっきは大変見苦しいところを……」


「あ、いやいや、別に……」


 古倉庫に置いてあったパイプ椅子と折り畳みの机を取り出し、俺達は卓を囲んだ。

 

 本当に有川さんをエロ部に入れるつもりかのか。

 めちゃくちゃ心配というか、あっちがめちゃくちゃ嫌がっているだろ。


「あ、あの……」


「ひっー! な、なんでしょう……」


 だってほら、"ひっー"って言われてるんだが。初めてだよ、女子から"ひっー"って言われるの。

 なんか俺のことすごく警戒してるな……座っている場所も扉の近くだし、それにカバンを置かず手に持っていつでも逃げれる準備してるし、何より犯罪者を見るような怯えた目で俺を見てるし……そりゃあそうだよな。名前の次に知った情報が"近親相姦もので抜いている"だからな。誰だって怯える。

 しかし、勘違いしないでほしい。俺が見ていたやつはあくまで義理の兄妹なんだ。本当じゃないんだ。そこだけは知ってほしい真実なのだが……。


「あ、いえ、なんでもないです」


 それを今言うとさらにややこしい感じになるので、俺はグッと言いたくなる気持ちを抑えて、変態のレッテルを被った。


「なーに、初夜のようにヨソヨソしい感じになってるの? これからは同じ部活の"ナマカ"なんだから仲良くしよう〜〜」


 ナマカって古いわ! 誰のせいでこんな気まずい雰囲気になっていると思ってんだよ。

 

「あの〜〜」


 有川さんが周りを見渡しながら小さく手を挙げる。


「どうしたのナルちゃん?」


「江戸浪漫研究部って言ってたけど、歴史の資料とかはないの?」


 あれ、この反応、まさか浅上、この部活の本当の内容言ってないのか?

 

「えーと、それはねーー」


 浅上が惚けている顔を見せる。それを見て有川さんが、


「リンカちゃん、私、歴史の資料が沢山見れると聞いて、部活に入ること決めたのに……まさかないの?」


 うわ、友達騙しているのかよ。信用が厚い女子ナンバーワンの浅上が、人を騙してやがるぞ。見た目可愛いのに、中身がクズだな。

 それにこの部はそんな学のあるもんじゃない。むしろ真逆な感じだろう。


「あるよ、あるある! ほら、江戸の書物だよ」


 そう言い、何処からか一冊の本を取り出し、有川さんに渡す。

 チラッと表紙を見る限り、確かに江戸時代っぽいものだった。


「本当だーー」


 有川さんは嬉しそうにその本を手に取り、読み始めた。

 俺はひっそり浅上に近寄り、小声で


「お前、歴史の本とか持っていたんだな」


「当たり前でしょ。これでも歴史は結構得意なの」


「そうなんか。でも意外だな、お前がエロ本以外のものを持ち歩いているなんて」


「え?」


「え?」


 互いに顔を合わせる。

 すると、


「あわわわわわわわーーー!」


 本を見ながら有川さんがまたショートした。

 もしやと思い、浅上が渡した本を見るとそこには"江戸の春画集"が乗っていた。


「やっぱりか」


 呆れた顔で浅上を見つめた。


「ゲヘッ!」


 お茶目な顔を見せる。


「テヘッみたいに言うな!」


 やはりこいつのエロ好きは筋金入りらしい。

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