第12話 保健体育で顔赤くなる女子は可愛い

 その日の放課後。

 俺は古倉庫で浅上を待っていた。

 今日もどうせあいつのくだらない性癖の話をして終わるのだろう。

 というかそもそも、当初の目的忘れていないか? 

 部活作るとか言ってここ数日、何もしていない。口だけだったのか。

 女子ってそういうのあるよな。

 女子が言う"いつかみんなで旅行行こ"とか"夏に海でバーベキューやろ"とかはめちゃくちゃ信用ならないからな。その場のテンションとノリだけだから。

 きっと浅上もその場のテンションで言っていたのだろう。


 まあ、俺としてはむしろいいけどな。


 そう思い、エロ漫画を取り出し読み始めた。

 すると、


「ク○ニちわ!!!」


 毎日挨拶を交わしたい女子ナンバーワンである浅上が最悪な挨拶と共に入ってきた。

 

 変態通り越してもはやヤバい奴だな。


「な、なんだよ、初っ端から飛ばすなよ」


 今日の浅上は妙に上機嫌だった。

 何か良いことでもあったのか?


「何、さげまんみたいな顔してんのよ」


「さげまんって……」


「そんなことより、喜んで松原くん! ようやく承諾してくれたの!」


「承諾?」


「うん! 入ってきて!」


 状況が飲み込めないまま、浅上が扉に向かって誰かを呼んだ。

 まさか承諾って……。

 嫌な予感が頭をよぎった瞬間、扉が開いた。しかし……。


 外には誰もいなかった。


「え?」


 勝手に開いた?

 何が起きている?

 頭にハテナを浮かんでいると、浅上が慌てて外に出て、誰かと話し始める。


「ちょっと、ちょっと"ナルちゃん"! 何逃げようとしているの!」


「だ、だって、男子いるなんて聞いてなかったもん……」


「あれ言ってなかったっけ? あーでも、"あれ"はただの飾りみたいなものだから、理科室の人体模型みたいなものだよ。いや、レズ系の漫画に出てくる竿役かな」


丸聞こえなんだが。  

というかあの野郎、俺のことそんな風にしか思ってなかったのかよ!


「リンカちゃん、相変わらず何言っているかわからないよ……」


「いいからいいから、こっちきて!」


 そう言い、浅上に連れられて無理矢理古倉庫へと入ってきた。


 前髪が長い、オドオドをした女子。

 地味な感じだ。面識がないから違うクラスの女子かな。


「紹介するよ、私の幼馴染み! 有川ありかわ 成美なるみちゃん! です!」


「ど、どうも……」


 浅上の後ろに隠れて小さく挨拶をする。

 照れ屋さんなのかな。


「んで、彼が私と同じクラスの松原 タクトくんだよ」


「ウッス……」


 浅上に紹介され、軽く会釈する。


「ちなみに彼の昨日の"オカズ"は小悪魔系妹とのイチャラブ近親相姦だよ」


「おい!!!」


 どうしてそんなこと知ってんだよ……。

 初対面の女の子にそんなこと知られたら、めちゃくちゃ恥ずかしい。というか軽蔑されるだろ!

 恐る恐る有川さん顔を見る。

 だが、


「きんしんそうかん?」


 何を言っているのか理解していない様子だった。 

 あれ? この子もしかして、そんなエロに関心ないのか。

 疑問に感じていると、浅上が有川さんの耳元でコソコソと話し始める。


「ナルちゃん、近親相姦っていうのはね——」


「え……き、兄妹で! え……え、え、え、え、え!! あわわわ!!」


 浅上の言葉を聞いて顔が真っ赤になったと思ったら次の瞬間、プシューと頭から湯気を出して倒れた。


「有川さーーん!! 浅上、お前何言ってんだよ!」


「何って、近親相姦について詳しく教えただけだよ」


「教えただけでこんな顔赤くなるのかよ、中学生じゃあるまいし」


「なるんだな〜〜これが。ナルちゃん、エッチな知識に対しては耐性がないの」


「え?」


「ほら、小学校とか中学校でクラスに1人はいるじゃない、保健体育の授業、顔赤くして聞いてた子、そのタイプなの」


「まじかよ」


 今時、下ネタにこうも苦手な女子がいるんだな。


「というか、お前の幼馴染みだろ?  それなのに耐性ないのか?」


「残念ながらね。幼い頃から一緒に遊んでいるけど、私がエッチなことを言うとすぐに顔を赤くするし、私がエッチなものを見せるとすぐにショートする。こんな感じで」


 そうなのか。てか知ってたのに、なぜ説明したんだよ。


「そんで、承諾ってもしかしてこの子……」


「そう! 我、江戸浪漫研究部、通称"エロ部"の部員になってくれるのよ!」


 まじかよ……。


 エロに耐性がない、この女子が……?


 大丈夫なの……か?






 

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