第10話 可愛い幼馴染みが欲しい人生だった…

 江戸浪漫研究部、通称"エロ部"設立に向けて俺と浅上の活動が始まった!!


 始まったのだが……!!


「うーんやっぱり今の私には良さがわからないな〜〜」


 放課後の古倉庫。

 浅上は俺のオススメ本を見ながら首を傾げていた。


「普通、普通だ! シンプルすぎて全然高まらないな〜〜」


 そう言い本を置いた。


「普通っていうな、王道と言え!」


「だって、"幼馴染みもの"ってもうありふれているじゃん。だいたいどうせ、両親いない時に幼馴染みの子がご飯作りにきて、そのまま泊まってヤルやつとか、久しぶりに再会した幼馴染みがエロくなっていてヤルやつとかでしょ?」


 そうだけど、ヤルって言うなよ。


「もうやりつくているし、結末もわかるしひねりがないな」


「エロに余計なひねりは必要ねぇーよ。王道で上等! それに"ハチ豚先生"の書く幼馴染みものはマジで絵が綺麗で素晴らしいんだよ!」


「ふーん。確かに絵は綺麗だけど、私的には綺麗過ぎて逆に萎えるな〜〜もっとエロに寄せて下品な感じを出した方がいいかもね」


「下品って……」


「そうだな〜〜この本のラストで幼馴染みが汚らしいおっさんに寝取られるというなら私好みだね!」


 そう、自身の望むアレンジを言う。

 相変わらず性癖がおっさんくさいな。


「……お前に勧めた俺が馬鹿だったな」


 呆れて俺は溜息を吐いた。


 部を作ると決めたはいいが、俺と浅上はこうして毎日、エロについて語っているだけで行動を起こしていなかった。


 部活を作るのが、ダルくなったのか?

 まあ、こちらとしてはむしろ、このままの方がありがたいけど。


「それよりも、もっとエッチィのを私が教えてあげるよ」


 そう言い、浅上はスクールバッグから一冊の本を取り出し、俺に渡す。


 その本には"NTR全集"と書かれていた。


「ひとまずこれ見れば私と同じステージに立てるよ」


「立ちたくないんだが!!」


「タチタクナイ……? あ、逆レ○プ物の方が良かった?」


「そう言うことじゃねぇー!」


 ったく、こいつの頭はエロオヤジかよ。すぐそっち方面に受け取りやがる。


 俺は本を拒絶した。


「もぉ〜〜松原くんはお子ちゃまだな〜〜そんなんじゃ汚らしい竿役のおっさんにはなれないよ」


「そんなん、なるつもりはない!」


「ふーん」


 再び、俺が勧めた本を取り、ペラペラと身始める。

 エロ漫画を見て何かを考えているようだった。

 何を考えているのだろう。

 どうせろくでもないことなのだろうが。


 すると浅上はそのまま本を見たまま俺に、


「松原くんって実際こういうシチュエーションって憧れたりするの?」


 と聞いてきた。


「え、あ、うん」


 突然の問いに戸惑い、軽く頷いた。


「そっか、じゃあ実際にやってみる?」


「へ?」


 浅上がニヤリと笑う。

 実際にやるってどういうことなのだろう。


「タッくん!」


 浅上が唐突に馴れ馴れしい呼び名で俺を呼んだ。

 それも普段の声より少し高めで。


「お、お前どういうつもりだよ!」


「いや、私が実際このエロ漫画に出てくる幼馴染みのように接してやろうかなって」


「なんでそうなる?」


「面白そうだから!」


 面白そうって……。


「それじゃあ、私は君の幼馴染みで君と一緒に勉強していて、いきなりエッチな雰囲気になる感じでやってみようー!」


「お、おい!」


 俺の意見を聞かずに勝手に謎の劇が始まった。


「タクト、保健体育以外は本当に勉強できないね」


 あれ、主人公はそんな設定だっけ?

 まあいいや。

 ここはパッと乗ってパッと終わらせよう。


「う、うるさいな〜〜」


「うるさいって何よ! せっかく幼馴染みである私が勉強教えあげているのに!」


 そう言い、古倉庫に置いてあった体操マットに横たわる。

 気が強い幼馴染みタイプか。


「ね、ねぇ……」


 突然甘い声を出す。


「な、なんだよ……」


「タッくんって……彼女いるの?」


「いないよ」


「そうなんだ……ふぅーん」


 嬉しそうな笑みをチラッと俺に見せた。

 あれ……なんだこの感じ……。


「彼女欲しいとか思わないの?」


「そりゃあ、欲しいけど……お前はいないのか、彼氏とか」


「い、いないよ! 何言ってるの! ばっかじゃないの!」


 あれ?……演技のはずなのに、なんだか……胸が苦しいぞ!


「「………」」


 お互い、沈黙する。

 この間もなんかリアルだ……。

 やばい、ドキドキが止まらない!!


「ねぇ……タッくんってさ、その"エッチ"なこととか興味あるの?」


「は、は!! 突然何言って——」


「あるの? ないの?」


 赤くなった顔で真剣に見つめる。

 これ……演技……なのか。


「そりゃあ、あるよ……」


 そう答えると浅上は、


「そっか……だったら」


 と呟き、俺に顔を近づける。 


「お、おま!!」


 俺の心臓の鼓動がさらに早まっていく。

 やばいやばい、頭がどうにかなりそうだ。

 

 幼馴染みになりたい女子ナンバーワンである浅上が、今は本当に幼馴染みをやってくれている……。

 めちゃくちゃ可愛い浅上が、俺の幼馴染み……。

 そう考えたらさらにドキドキが早まっていった。

 浅上が変態ということを忘れるほどに。

 夢のシチュエーションが俺の思考を停止させた。


「タッくん……」


「あ、浅上……」


 漫画のシチュエーションのように俺はそのままゆっくり瞳を閉じ、彼女を待った。


 しかし。


「っぷ!」


「え?」


「ハハハハハハ!!」


 聞こえたのは下品な声だった。

 

「ごめん……もう私無理……っぷ! ハハハハ!」


 目を開けるとそこには腹を抱えて笑っている浅上がいた。


「一体どうしたんだよ」


「いやだって、あまりにもありきたりなセリフと展開、何よりそれを本気で喜んでいる君を見て、笑いが込み上げてきちゃってさ。我慢出来なかったわ! アハハ!」


 さらに笑い続ける。

 こ、こいつ!!


 拳を振り上げそうになったが、俺はすぐに下ろした。


「…………」


 俺をからかった浅上への怒りよりも、こいつに騙されて本気でドキドキしてしまった自分の情けなさが上回ってしまった。


 俺は馬鹿だ……。


「なーに萎えてんの? 続きやってやろうか?」


 ニヤニヤしながら聞いてきた浅上に俺は——。


「二度とやるかよ!!!!」


 思いっきり否定した。

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