第9話 江戸の春画は地味にエロい

 しんどい授業が終わり、放課後になった。

 普段なら古倉庫でゲームをしたり、お宝本を見たりと1人の時間を楽しむのだが……。


「じゃあ、早速"エロ部"設立に向けての作戦会議を始めましょう!!」


「お〜〜……」


 やる気のない声を上げた。

 学校の備品と俺の私物が散乱するプレハブの倉庫で2人きりの時間が始まろうとしていた。


 この世で最もくだらない2人の時間……そう、俺の至福の時を昨日で終わりを告げてしまったのだ……この変態女子ナンバーワンの"浅上 凛花"によって——。


「よし、じゃあ早速"エロ部"の活動方針だけど〜〜」


 浅上が話を進めようとしている中、俺は無言で手を上げた。

 どうしても知りたいことがあったからだ。


「はい、どうしたの、松原くん?」


「そもそもなんだけど、"エロ部"ってなんすか?」


「何ってそりゃあ……エロを嗜む部活よ!」


 自信満々に宣言する。

 なんでこうも堂々と言えるんだよ。


「嗜むって、具体的に何するの?」


「何ってそりゃあ……エロ本とかエロ漫画見たり、あとは AVとかエロアニメの鑑賞、エロゲとかしたりするのよ!」


 この世で最もお下劣な部活だな。


「そんなん万が一先生に見つかったら俺らめちゃくちゃ怒られるぞ」


 この古倉庫を勝手に私物化している時点でアウトなのに、それに加えてこんな青少年育成条例に引っかかるようなものを置いていたら怒られるだけでなく退学だってあり得るぞ。

 この倉庫を見つけて1年、何度先生にバレそうになったか……いつも倉庫整理って言って言い訳していたけど、流石に"有害図書"が増えた言い訳できなくなるぞ。


 不安いっぱいな俺を見て、浅上はニヤリと微笑み、ご自慢の長い黒髪を靡かせた。


「だから部活動にして、正式に許可をもらおうとしているんじゃない」


 本気でいっているのか? 

 てか頭大丈夫か?

  

 俺は浅上のことを本気で心配になり始めていた。

 ここはハッキリ強く、男らしく言ってやろう。


「無理に決まってるやろがい!」


「なんでじゃわい!」


 なんか俺の思う男らしい言葉に浅上も乗ってきた。


「そんな破廉恥な部活、認められるわけないやろがい!」


「やって見なきゃわからないやろ!」


「やって見なくても目に見えてるだろ! こんな"有害図書"を眺めているだけの部活! とうてい許可が降りるわけがない!」


「有害図書……」


 その言葉に浅上が引っかかる。

 どうしたんだ?


「つまり、私たちが見ているものが"有害図書"でないと思わせられればいいのね」


「あ、ああ。それと部活動だから何かしら文化的なものでないといけないな。茶道部とか美術部とかあと確か漫研部もあったな〜〜」


「マ○コ研究部!!」


「漫画研究部な、絶対言うと思った」


 油断もスキもねぇーな、この女。

 すぐ下ネタへと転換していく。


「でもまあ、そのマ○研みたいな部活なら許されるんでしょ」


「あ、ああ」


 その前に○でいやらしい言葉にするのやめてもらっていいすか?

 

「だったら、こうしましょう!」


 そう言い、浅上は倉庫に置いてあったホワイトボードに突然、何かを書き出す。


「私たちの表向きの部活名はこれよ!」


 書いたところをバンッと叩き、俺にアピールする。

 そこには"江戸浪漫研究部"とデカデカと書かれていた。


「え?」


「江戸浪漫研究部、通称"エロ部"よ! 江戸の文化、特に春画を中心に研究する部活、これでどうよ!」


 ドヤ顔で俺を見る。

 いや、そんな顔で見られても……。

 それでも絶対無理だと思うが、ここはあえて何も言わず、現実を知ったほうがいいか。


「いんじゃね?」


 てきとうに答える。

 すると。


「よし! じゃあ早速、生徒会に申請してくる!!」


 そう言い、勢いよく古倉庫を出て行った。

 行動力がすげぇーな。

 まあ、恐らく、いや十中八九確実に却下されるだろうな。

 あいつが来るまでゲームでもして待っていよう。


 それから30分後。


「ただいま……」


 がっかりした様子で浅上が戻ってきた。


「どうだった?」


 一応確認のため聞くと、浅上は小さな声で答えた。


「ダメだって」


 だろうな。こんなよくわからない部活が承認されるわけがない。

 どうやらうちの学校の生徒会は有能だったみたいだ。


「部活の内容は素晴らしいって褒められたんだけど」


「うぇい!?」


 浅上の一言に対し、変な声が出てしまった。え? あのスカスカな活動内容褒められたのかよ。嘘だろ生徒会。


「そ、それならどうしてダメなんだ?」

 

「顧問の先生と部員が最低3人いないと部として認められないみたい。ちぃ!」


 悔しそうに舌打ちをする。

 根本的な問題だったのか。

 しかし、そうなると嫌な予感がする。活動自体を否定されて却下されたら、流石にこの女も諦めがつくだろうが、ただ人がいないというだけならどうだろう……もしかして、変な気を起こすんじゃないだろうな。

 

 そんな俺の心配はすぐに確信へと変わった。


「よし! こうなったら部員と顧問の先生を確保して意地でも部として認めてもらおう!! 頑張ろうね、松原くん!」


 可愛らしく俺に微笑む。

 俺は苦笑いで返した。


 最悪だ……。


 こうして、俺と浅上の江戸浪漫研究部通称"エロ部"設立に向けての活動が始まった。


 いや、始まるなーー!


 

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