第8話 駅弁ってうまいよな
午前の授業終了のチャイムが鳴った。
ようやく昼飯か。
購買でてきとうにパンを買って、古倉庫で食べよう。
そう思い立ちあがろうとすると、視界に浅上を捉えた。
相変わらず彼女の周りには沢山の女子生徒が群がり、昼食を取ろうと机をくっつけていた。
まあ、勉強もできて、スポーツもできるし、女子からも人気だよな。
というか浅上を囲っている女子達は浅上が変態ということは知っているのだろうか。
少し気になるな〜〜。
俺は聞き耳を立てて彼女達の会話を聞いた。
「浅上さん、今日のランチどうする?」
「今日はコンビニでお弁当買ってきたんだ」
「珍しい〜〜いつも浅上さん、手作り弁当だったよね?」
「うん、今朝ちょっと寝坊しちゃってね」
「そうなんだ〜〜あ、みんなお弁当だと何が好き?」
1人の女子が突然話題を振る。
「私は定番のチキン南蛮かな」
「あたしは、セブンのヘルシー弁当」
「うちは、"552"のエビチリ弁当〜〜」
「浅上さんは?」
「ん?」
エビフライ弁当のエビを加えながら、浅上は目を丸くしている。
どうやら弁当に夢中で話を聞いていなかったようだ。
「浅上さんは"何弁"が好き?」
1人の女子が尋ねると、浅上は箸を置き、真顔で、
「やっぱり王道を征く"駅弁"ね!」
と堂々答える。
さらにそのまま語り始める。
「やっぱり他のものよりも特別感があっていいよね。何より写真で見てもそそるものがあるし。意外とものによっては種類も豊富だし、確か2人で(女を)食べるものもあったよね。駅弁のスタイルは本当に見てるだけで(性欲が)満たされるわ〜〜」
あれ……これ俺の知っている駅弁の話じゃなくて、違う"駅弁"の話をしてないか?
そう疑問に思っていたが、しかし。
「へぇ〜〜浅上さん、そんな駅弁好きなんだ〜〜」
「確かに特別感とかあるよね」
「私も旅行行くとついつい食べちゃうな〜〜」
「美味しそうなのばっかりで見てるだけで胃がもたれるよね」
そう話す。
どうやら他の女子はなんの疑問も持っていないようだ。
会話はなんの問題もなく続いているようだけど……絶対あいつが話していた駅弁は駅の弁当じゃない! もっと"あれ"な駅弁だろう。思春期特有のエロ察知能力を持つ俺だけがその真実に気付いていた。
そうか、普段もたまにこうやって下ネタをナチュラルにぶち込むが、まわりがそういうのに知識がなくてなんとも思われていないのか。すげぇー奇跡的にだけど。
まあ誰も清楚系女子ナンバーワンの浅上 凛花が下ネタを好む痴女だと思わないか。
そうなると、もしかして……このクラス、いや学校で俺だけが浅上の本性を知っているのか……。
もしそうなら……あいつ……。
女子に囲まれながら楽しそうに話している浅上が少し、つまらなそうに見えてしまった。
「浅上……」
「なーに、ジッと浅上さんを見ているんだよ」
「うわっ!!」
突然、すぐ隣で声が聞こえて飛び上がった。
見るとそこには俺に素晴らしいエロ漫画を貸してくれた友人……"山田"がいた。
「山田、お前急に話しかけてくるなよ」
「だったらもしもしって言えばよかったか。にしてもお前……一つ聞きたいことがあるんだが」
「聞きたいこと?」
頭を傾げると、山田は俺の肩を力強く握る。
「いてて!!」
「お前どうして、今朝、朝一緒に登校したい女子ナンバーワンの浅上さんといたんだ?」
なんだそんなことかよ。てかいてぇ! 肩の肉が千切れる。
山田の顔は笑っているが目が笑ってないなこれ。こうぇー。
「たまたま一緒だっただけだよ」
「たまたまってお前が話しかけたのか?」
「いや、あっちから」
「は? どうして? あの浅上嬢がお前みたいなモブに話しかけたんだよ」
モブって……。
しかし、どうしよう。正直にありのままを答えるべきか。いや、ありのままを言ってもこいつは信じないだろうし、うーん。
ふと先程の話を思い出す。
そして——。
「好きな弁当が一緒だったんだよ」
「は? 好きな弁当ってなんだよ」
「何ってそりゃあもちろん……」
駅弁だよ———。
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