第7話 セイツウ
「私がなぜ、エロに興味を持ったのか。それを語るには7年前……つまり10歳の頃まで遡るわ」
あれ? これそんな壮大な話なの?
「その頃の私は"チ○オ"とか"リ○ン"といった少女漫画雑誌が好きでよく読み漁っていたわ。普通の女の子だったと思う。女の子が好きなものが好きだったし、女の子が嫌いなものは嫌いだった。どこにでもいる普通な少女だった……だけど、そんなある日……」
さらに神妙な顔つきになり、少し間を置いた。
なんでこんな重そうに話すんだ?
ただのエロについての過去回想だろ?
「宿題でわからない言葉が出てきて、辞書を探しにパパの部屋に入ったの……それで重たい辞書を取った時、中から一冊の本が挟まっていた」
もしかして……。
「その本の表紙を見ると裸の女の人が写っていた。その瞬間、私は"あ、これ大人の本だ"と思い、すぐ戻したわ。この頃の私は若く、"そういう"ものに耐性がなかったの。辞書も取らずに部屋を出たわ……でも……あの本を忘れることが出来なかった、むしろ日を追うごとに興味がそそるばかり……ついにその好奇心が限界を達し、私は再びパパのいないタイミングを狙って部屋に入り、あの本の中身を見た……そして」
浅上は俺の前に立ち、俯いていた表情をゆっくり上げて、
「"性"の喜びを知ったわ!!」
ドヤ顔を俺に向けた。
……いや、重い雰囲気だったから、もっとちゃんとした理由があると思ったけど、これただの……。
「性に目覚めたあるあるエピソードじゃん!」
「え? そうなの?」
目を丸くしながら、浅上が言う。
「そうだよ、世の男性はだいたい父親のエロ本もしくはAVで性に目覚めるんだよ!」
にしても、女子が小3から性に目覚めるのはイレギュラーすぎるけどな。
「ふーん。そうなんだ〜〜じゃあ松原くんも見てたの?」
「え?」
「パパのエロ本で喜びを知ったの?」
「いや……俺は……」
浅上が一歩迫り、嫌な笑みを浮かべて俺に問いただす。
「私も話したんだから教えてほしいな……松原くんは"ナニ"でエロに興味をもったのかを!!」
「な、なんでそんなことをお前に話さなくちゃならないんだよ!」
「言わなかったら、昨日のことクラスのみんなに言おうかな〜〜」
弱みを握られていたのを忘れていた。
しまった……言いたくはないけど、言わないと俺の青春も終わる……仕方ない……。
俺はゆっくり口を開いた。
「小5の頃……」
「ん?」
ボソボソと話す俺にさらに顔を近づける。
うわっこいつ、やっぱり近くで見るとめちゃくちゃ可愛いな。目とかぱっちりしていて……やはり次期橋本○奈と噂されている女子ナンバーワンなだけある。
そんな女子とこんな近くまで接近しているのに、その理由が性の暴露トークを聞こうとしているだけなのが、なんとも全てを台無しにしているな……。
まあこれもエロ漫画を見られてしまった末路か。
自分の不運に呆れながら俺はとうとう告白した。
「母さんの部屋にあったレディースコミックを見て……それで……目覚めた……」
「oh………」
外国人のように浅上が引きつった顔で言う。
あれ? なんかこいつ俺のこと引いてない?
「なんだよ、その反応……」
「いや、松原くん意外と大人な"セイツウ"しているなと思って……」
セイツウに大人も子供もあるのかよ。
「なんか……悔しい」
「は!?」
そう言って浅上は若干俺と距離を置いて歩き始めた。
なんなんだよ、こいつ……。
朝からくだらない話をして俺達は学校に向かった。
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