第2話 発見
広い広い北海道の大地をのんびりドライブするのは気持ちがいい。ときおりキツネやウシを見かけては今回、北海道初上陸のハルが喜びの声を上げているのが何だか可愛い。
そうして走ること、しばらく。平らに広がる牧草地の真ん中でポツンとエゾシカが立っているのが見えた。こちらの姿には気がついているようで視線が合う。
急いでエゾシカから見えない木の陰に車を停めて、静かに行動を開始する。
今回の狩りは、ハルに経験を積ませる目的が大きいためオレは指示とカバー役だ。姿勢を低くして物陰に隠れながらまずレーザーレンジファインダーで距離を計測した。
「およそ100メートルか……」
ハルの持つ散弾銃だと厳しい距離だ。ハルに指示を出す。
「二人で撃とう。順番はハルが先だ。散弾銃で、この距離だと弾道が下にズレるから気をつけろよ」
オレはライフル銃を構える。そうしてお互いの射撃準備が完了し、スコープに獲物を捉えたところで呼吸を合わせる。ハルが先に撃って、そのすぐ後に俺も撃つ。
タイミングはバッチリで発砲音が辺りにドン! ドン!と連続して鳴った。するとエゾシカの膝がカクンと崩れ落ちる。ハルが「やった!」と声を上げた。
しかし崩れ落ちたと思ったエゾシカがスクっと立ち上がったのだ。そして元気よく走り出した。
「半矢!?」
ハルの悲鳴が上がる。しかしエゾシカは、そこからしばらく駆けた後に、もんどり打って倒れた。しばらく様子を見ていたが、それ以上は起き上がる様子がない。
「狩りは成功だ。血抜きをしよう」
オレの言葉に嬉しそうに目を細めたハルが獲物の下へと駆けて行く。オレは車を用意するために、そちらに向かったのだが、そこにハルの切羽詰まった声が辺りに響いた。
「加瀬さん! ちょっと来て下さい! 急いで!」
ハルの慌てた様子の声に急いで現場へと駆けつける。
「どうした?」
そう声をかけた俺はハルが「これ!」と言って指差す先を見て驚いた。
そこには扉があったのだ。見た感じ青銅製の扉だ。大きさ的には家の玄関ぐらいの大きさがある。それが地面に横たわっているのだ。捨てられているのかとも思ったが、こんな所に扉を捨てるやつなんて居るだろうか?
「なんだコレ?」
俺の疑問にハルが答える。
「扉……」
「知ってるよ! 見りゃ分かる!」
思わず勢い込んで突っ込む。
「そうじゃないだろ。何で扉がこんな所にあるのかって言ってんだよ!」
ハルが苦笑いで「ですよねぇ」と答える。こいつ…… 俺ががっくりと肩を落としているとハルは扉に近づき「よいしょ!」と言って扉を開き始めた。
「おい!」
やはり突っ込む俺。言葉を続ける。
「無防備すぎんだろ!」
しかしハルは困った様子で答える。
「え~、だってぇ」
「だってぇじゃねぇよ!」
「じゃあ開けて確かめないんですか?」
「そんなことはないけど、もうちょっと慎重にだな……」
そう言いながらもハルは扉の取っ手に力を入れる。しかし正直ハルの腕で開くとは思えないだけの重量感があるように見えた。
しかし青銅製と思われる扉は軽々と持ち上がる。唖然とする俺をよそにハルは、その勢いのまま扉を開ききってしまった。思わず突っ込む。
「お前、どんな腕力してんだよ?」
「え? 普通ですよ?」
釈然としないものを感じながらも扉が開いた先を見る。中は完全な暗闇で、そこからは土の匂いと同時に冷たい風が吹きつけてきていた。ハルが口を開く。
「風が吹いていますね……」
「あぁ」
「それってどこかに通じてるってことですよね?」
「だろうな……」
ハルが俺を見ていて、その目には好奇心の色が浮かんでいる。存外に「行きますよね!」と言っている。俺は思わず溜息を吐く。
「あぁ。だがその前に仕留めた獲物の血抜きと解体が先だ」
「えー」
心底、不満そうな声を出すハルに、軽く拳骨をしてエゾシカの解体を始めたのだった。
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