第11話 四匹の子猫

 ある年の十月のある日、猫部屋(猫の集会所)から変な音が聞こえた。

 私が猫部屋に行ってみると、外扉の内側に段ボール箱が置かれていて、その中に生まれて日も経ってないと思われる子猫が四匹入っていた。それを見た私はパニックになりかけたが、この子猫たちに心当たりもあった。


 うちに出入りしているトラ猫のメスが生んだ子に違いない。お腹が大きくなっていたが、昨日見かけたときにはお腹が小さくなっていたような気がした。

 その猫も、元々は子猫の頃から集会所で育った猫だった。

 たぶん付近の家の小屋かどこかで出産したのだろうが、その家の人に気づかれて、「きっとあの家の猫の子だから」と、置いていかれたのだろう。


 私は必死に頭を働かせた。まず第一に私がしなければならないのは、この子猫たちをほかの猫たちから守ることだ。

 というのも、子猫は生まれてだいたい一ヶ月以上育たないと、母猫以外の猫に「猫」と認識されず、攻撃される恐れがあるのだ。彼らにとっては、生まれてたての子猫など、ネズミや鳥の雛と何ら変わりない。

 母猫が子猫をひとりで育てるのは、父猫に殺されないためなのだろう。


 私は子猫の入った段ボール箱を部屋(集会所)の隅に置き、他の猫を近づけないように見張りながら、母猫が来るのを待ったが、その間もいろいろと考えることがあった。


 母猫が来たとして、この子猫たちをいったいどうするだろう?

 私では到底育てられない。母猫でなければ無理だ。でも、子育ての家(小屋?)は追い出されてしまった。


 そしたら母猫は、どうするだろう?

 ここで育てるなら、周りを囲ってほかの猫が入れないようにしなければならない。それは容易なことではないが。


 だけど、もしまた子猫をどこかへ連れ出したらどうする?元の場所へ連れ戻るだろうか?それじゃ「振り出しに戻る」じゃないか。


 やはり私が育てるしかないのか?


 頭の中が大混乱しているうちに、三十分ほどしただろうか、母猫がやってきた。母猫は子猫の鳴き声を聞き、段ボール箱をのぞき込んだ。


 どうする?そこで育てるか?


 すると母猫は、子猫のうちの一匹をくわえると、さっさと外へ連れて行ってしまった。「ちょっ待てよ!」と言う間もなかった。私は追いかけて外へ出たが、既に母猫の姿はなかった。


 私は呆然としていた。どこへ連れて行ってしまったんだろう?それはわからないが、母猫がそう判断したのなら、残りの三匹も連れて行ってくれなければ困る。


 ところが、一時間以上待っても母猫は帰ってこない。おい、この三匹を連れて行かないのか?私はまたパニックになりかけた。

 だがもう迷っている暇はない。残った三匹は、少なくとも今日は私が面倒を見なければならない。


 私は子猫の入った段ボール箱を空いている部屋に運ぶと、ホームセンターに行って、猫用ミルクと哺乳瓶を買ってきた。猫用ミルクは粉末状のものと液状のものがあるが、液状のものにした。


 ネットで調べながら、マグカップに入れたミルクを電子レンジで猫肌に温める。体温計で計りながら、十秒刻みで温める感じだ。

 レンジで温めるのは推奨しないと製品に書いてあるが、そんなことは言ってられない。


 ミルクを哺乳瓶に入れて、左手に一匹、子猫を持ち、飲ませてみる。ところがなかなか飲んでくれない。次々と子猫を持ち換えて飲ませてみるが、やはりあまり飲んでくれない。

 何がいけないのだろう?そうか、ミルクをマグカップから哺乳瓶に移し替えたときに、冷めてしまったか?


 私はミルクをもう一度マグカップに移して、レンジで温め直した。こんな試行錯誤を何度も繰り返し、飲ませ終わるのに一時間もかかってしまった。


 これを三時間置きに繰り返さなければならないのか。

 その夜は三時間置きに目覚まし時計で目を覚まし、子猫たちにミルクを与えた。


 そして次の日、子猫の入った段ボール箱を再び猫の集会所に持ち込み、母猫が来るのを待った。

 母猫はまたやって来て、段ボール箱の中からまた一匹くわえて連れて行った。


 このとき、私に一つの疑念が生じた。

 もう寒くなってきているのに、子猫は無事に育つのか?下手すると、あと一ヶ月くらいで雪が積もるぞ。四匹全員連れて行ってくれるかもしれないが、寒さで全滅ってこともあるんじゃないか?


 それだったら、残った二匹は私が育てるべきじゃないのか?


 私は苦渋の決断を下した。二匹は私が育てるしかない、と。


 これが第1話で話した、私が育てた子猫たちだった。

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