8.下げ

 とまあ、そんな具合で宮さんパトカーを走らせていたらば、いるではありませんか、波打ち際で四つん這いになっている男が。

 あ、この男だ!と思って、近寄ってみたらば、やはり、飯島丸尾。

 宮さんピーンと来る。

 

 恐らく、この子は人を殺して、パニック状態になったんだ。だから、友達と旅をしていると自分に言い聞かせて、その頭の中で作った役を懸命に演じることで正気をなんとか保っていたんだな。しかし、死体を捨てた瞬間、魔法が解け、見えてきたのは自分が人殺しだと言う現実。その現実から逃れる為にピョーンと身投げをしたが、死にきれずに、波打ち際で這いつくばっている。

 人殺しは決して許されることじゃない。この子はちゃんと罪を償うべきだ。そして、反省して、罪の十字架を背負って歩いていく。これこそが正しい道じゃねえか。

 しかし、若いってのは本当に不安定なことだ。

 突発的に友人を殺してしまうなんて、馬鹿なことをする。

 俺の娘もそう言った不安定さを持って生きているのだろう。

 最近、頭ごなしに怒ってばかり、と言うのも、娘は大学が楽しいらしく、その上夜遊びなんか覚えてしまったから、もう父親として気が気でなかった。  

 俺も、娘との接し方と言うものを考えねば。いや、その前に、これだけ好き勝手やったんだから、クビになった後のことを考えるべきか。


 なんて、ぶつぶつ考えながら、青年に近づいていく。

 青年はぼんやり焦点の合わない目でこちらを見ている。

 青年の前に立ち尽くす宮さん。

「飯島丸尾くんだね」

「・・・はい?」

 宮さんの問いかけに青年は力なく答える。きっと、極限の精神状態が続いたせいで、糸が切れた今、うまく頭が働いていないのだろう。

「山田拓海くんの殺害容疑で逮捕する。署まで来てもらおうか」

それだけ言うと、青年は抵抗する様子もなく、力なく立ち上がる。

その手を取って、歩く宮さん。

この子はもしかしたら、誰かに捕まえて欲しかったのではなかろうか。 

ふと、横を見ると、青年は大粒の涙を流している。

うん、間違いない、今、彼は心底ほっとしているに違いない。やはり、追いかけてよかった。なぜなら俺は一人の青年を救えたのだから。

「君、辛いのは分かる。でも、自殺なんかしちゃいけない。自殺をしたところで、君の苦しみは消えない」

「そうじゃないんです」

「ならば、親御さんに対する申し訳ない気持ちでいっぱいと言うところかね。それとも、自分の人生について考えているのかね、それともなんだ、罪悪感かね。いいか、君はその全てを背負って生きていくんだ。それが君に残された唯一の救いの道だ」

「それでもありません」

「ではどうして泣いている」

「友達が死んだから」


お後がよろしいようで。

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