第2話 CAFE BROOKLYNにて
ユミちゃんが連れてきてくれたカフェは、大型書店の裏手にひっそりと佇むアメリカンヴィンテージの個人喫茶。店内にはレコード時代の洋楽。ウッドフロアにテーブルが5、6台。
ここへ来る途中、歩きながらユミちゃんの友達の名前を知った。ベリーショートの子が
いつも深月の背中ばっかり追いかけて普段図書館か自宅か塾に缶詰のマキ。たまにはこうして違ったメンツと遊ぶのもいいだろ? オレはにっと笑ってそんなシグナルを送ったつもりだったが、向こうからは凍てつく視線が返って来た。なんで?
メニューにマスカットティーがなかったからレモンティーにする。家で食ったばっかで腹は減ってない。ついでに深月にメール。ぺぺぺぺと文字を打つ隣りで章也もスマホを触り出す。ユミちゃんはマキにケーキも頼もうと言ってメニューを一緒に見ていて、キヨちゃんはまだ飲み物をどれにしようか迷っていた。
「ちょっとメンズ、いきなりスマホ?」
ベリーショートのミクちゃんに言われてオレらふたりは平謝り。ミクちゃんは柔道部らしい。さっきミクちゃんの後ろを歩いていて逆三角の背中には気付いたけど、水泳か何かだと思っていた。武道系の人に礼儀を正されると襟がピッと直る。オレも章也もすぐスマホをポケットにしまう。
「ドリンク、決められないの?」
キヨちゃんに声をかけると顔を赤らめて、「うん」と頷く。
「レモンティーかオレンジティーで迷ってて……」
「じゃ、レモンティーはオレの一口あげるよ」
オレは好意で言ったのに、キヨちゃんの前に座るミクちゃんが、オレにジト目を送って来る。なんでオレは今日そんなにあちこちから睨まれるのか。
飲み物が来るまでしばしの雑談タイム。オレは女の子たちの話に相槌を打ちながら、深月にメールを打つ。章也も何度かスマホを見たが、自分が使いたいというわけでなく、どうやら誰かからちょくちょく連絡が来ているらしい。
そしてオレはマキを観察する。
間もなく6つのグラスがテーブルの上に並べられ、各々が自分の分を取っていく。オレはその中からレモンとミントを添えたトールグラスに透明なストローを差してキヨちゃんに渡す。
「はい、先飲んでいーよ」
「ありがと」
キヨちゃんは一口飲んだだけでオレに返す。シジミ蝶が花の蜜を吸ってるみたいなチマチマ感。
「もっといいのに」というと、
「も、もう十分だよ」と言って顔を赤らめる。
あんまり赤くならないでもらえるとありがたい。なぜなら、ミクちゃんがすげー睨んでくるから。理由を今ここで聞くわけにいかない。あとにしよう。今は間違っても路地裏に呼び出されたりしませんように。
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