第3話 木陰の外はやわらかな陽光

 通話を切ったあとで、オレはみんなに何をどう言ったらいいのかわからなかった。


 マキはポプラの影がつくる境界線の外で怒りの無語。章也は自分が悪いわけでもないのにそわそわしてる。ユミちゃんの友達ふたりがユミちゃんを慰めるように彼女のそばにいる。おいおい、どうすんだこの空気。


「神木君、来られないの?」


 ユミちゃんのしぼんだ声。顔はなんでもないみたいに装ってるけど、本当はすごく残念なのが隠しきれていない。深月に会うのすっげー楽しみにしてたんだろうな。恰好を見ればわかる。


 花柄のオフショル、淡色デニムのミニスカート、アイボリーの夏っぽいミュール、ポシェットに添えた手を見れば爪にはネイルアート。普段学校では文房具とかノートとか、ピンク系が多いのに今日のネイルは水色×藍色。シルバーのラメが一筋。小さなクリスタルがひとつ。これも深月の好みを考えて合わせたんだろう。


 そうゆうことがわかってて『今日は来れないみたいだ』なんて、舌触りが悪すぎる。だからといってそれ以外の言葉が見つからないから、「うう~ん」と唸って時間を稼ぐ。


 マキのこともどうする。幼馴染オレたちで集まると思ってここまで来たんだ。それなのにオレ、マキになんつった? 「どうしたの奇遇だね」って。オレのバカ。深月のバカの思い付きはともかく、こんな状況を作っちまったのはオレ。あいつを責めるより、まずオレだろ。


 マキとユミちゃんの間でパンッと両手を合わせて頭を下げる。


 「ゴメン!! オレのせいだ」


 オレのせいでふたりにそんな顔させちゃったんだ。謝って許してもらうしかない。そのくらいしかオレにはできない。


「深月を誘った時の言い方が悪くて、あいつを誤解させちゃったんだ。悪い、本当ごめん……!!」


 おっかなびっくり顔を上げると、マキはそっぽを向いて怒っていて、ユミちゃんはきゅっとポシェットの肩ベルトを握り締める。それは一瞬の動作で見逃してしまったとしてもおかしくなかった。


「寝てないんじゃしょうがないよね。起こしたらかわいそうだから、このままみんなで遊びに行こ!」


 落ち込んだ自分を励ますように明るく振る舞うユミちゃん。


「メール、打っとくよ。目ぇ覚めたら絶対来いって」

 呪いのメールみたいなやつをこれでもかというくらいに。

「うん! あとで来てくれたらいいね。ね、乙さんも一緒に遊びに行こーよ」


 ユミちゃんはポプラの木陰から一歩出てマキに微笑む。


 思わぬ助け舟。ユミちゃんから誘ってくれるなんて思ってなかった。オレがやらかしたことだ、オレがなんとかしなくちゃいけないものだとばかり思っていた。


 突然のことに、マキは面食らって怒りを抜き取られたみたいな顔。いつも涼し気な目が、今は初めて友達ができた子供みたいに見開いて、笑顔のユミちゃんを見る。ふたりの頬にやわらかい陽光が差して心なしかふたりが眩しい。


「わたしこのへんにいいカフェ知ってるんだ。みんなにも教えたい」


 マキの手を引っ張って歩き出したユミちゃんのあとを友達ふたりがついていき、その後をオレと章也が導かれるまま歩き出す。


 いつもと違う六人で歩く繁華街のメイン通り。今日の風は季節が戻ったように涼しかったけれど、その中に確かに初夏の匂いがした。

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