第2話 ポプラの作る木陰の外
電車が駅に着いたのは待ち合わせの5分前。お母さんが余計な口出しをするから時間ギリギリになってしまった。
誕生日を祝ってもらうんだからちゃんとオシャレしなさい、だなんて、何を今更。集まるのはいつもの
ヘアカタログを検索してこれがいいとか年甲斐もなくキャッキャッ言って、アップにしようとしたけど結局失敗。「真紀ちゃんの髪って形状記憶なの?」って。お母さんの髪はどうなんですか。
でも、毎日仕事で忙しいから、休日くらい娘に構いたいのはわかっている。
遅刻ギリギリで駅の階段を降りると、ポプラの木の下に集まる4、5人のグループが目に入った。一人、上背のある男の子がいる。服装が派手。蛍光ペンの文房具コーナーみたいなコーディネート。それが幼馴染の一人だとわかるのに時間は要らなかった。
躑躅ヶ浦常葉。ハイトーンのウルフカットをワックスでカッコつけて、女の子にデレデレしちゃって。あの時美容師さんについて行ったのは結局正解だったね。
高校に上がって間もなくの頃、
翌日、校則違反の明るい頭で登校した常葉は、早速先生に注意されて馬鹿を見る。こっちは呆れてるって言うのに、へらへら笑ってカッコいいだろ惚れたら告ってもいいぞ、とか軽口は相変わらず。
そこまで言うなら、告ったら付き合ってやるくらい言ったらどうなの?
今、常葉と話している女の子たちは、最初逆ナンかと思ったけど違ったみたい。あれは深月のクラスの菅谷さんと小路さん、荒木さん。偶然会って話し込んでる、とか? でも常葉はなんだか困った顔。
「常葉?」
声をかけたら全員一斉にこっちを見るから少し怯んでしまった。顔には出なかったと思うけど。一応待ち合わせだから常葉の方へ行ってみた。でもなにか違和感がある。彼らと私の間に、反発する磁力が働いているような。私はお呼びでないような。だから私はそのポプラの木陰に入れない。
「マキちゃん」
常葉の声。相変わらず陽気で人懐っこい。何か不安なことがあるときでも常葉と喋ると元気が出る。
「どうしたの? こんなところで、奇遇だね!」
一瞬で体温を奪われたような気がした。
どうしたのって。
奇遇だねって。
それは、私に言ったの……?
女の子たちが私を見る目が怖い。
……でも、私はこんなことでやられたりしない。
私は、負けるのが、嫌い。
「奇遇じゃないわよ。深月に呼ばれてきたの」
「深月に?」
「今日3人ここに来るからお前も来いって、それだけ。夜明け前にメールで」
誕生日おめでとうって言ってくれたの。だから今日、
「3人?」
でも違ったんだ。私の勘違い。
あ、やばい。泣きそう……。
「私はてっきり、常葉とチカと深月のことだと思ったんだけど」
冷たい声で涙を押さえつける。
「それなら普通に4人で集まるって言うだろ」
そうだね。普通の日なら私も変だって気付いたと思う。深月は今日のこと、どうしてちゃんと言ってくれなかったんだろう。ここにもいないみたいだし、千夏もいない。いるのは話したことのない3人の女子と男子1人。
深月、言ってることと違うじゃん。
「じゃあ3人って誰のこと?」
常葉は半分パニックを起こして人数をカウントしたりしてる。見ればわかるじゃない。あなたを含めて5人よ。
「もう待ち合わせの時間だね」
荒木さんが腕時計を見て、小路さんが眼鏡を直して時計台を見る。
待ち合わせという言葉がこれほど殺傷能力のある鈍器だったとは、16年生きてきて初めて知った。今の私にはオーバーキル。これ以上は無理。限界。
もう帰ろうかなと思ったら、常葉のかけた電話に深月が出た。その電話を奪って鼓膜が破れるくらい怒鳴ってやりたかった。
「どうゆうことか説明しろ」
でも、常葉の声が怒ってるから、私の代わりに怒ってくれてるから、今はそれでいい。
「なにが事前に代わった、だ。マキは全然了解してねーぞ。あとでどうなっても知らねーからな!」
そうよ。了解なんてしていない。
だから、
深月のことは、あとでシバく。
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