第36話「ドラゴンが観測された」

 朝から玄関ドアをダンダンと叩く音が響いた。この音はただ事ではないと二人で玄関を開けると自警団に所属していた男が慌てて俺たちにまくしたてた。


「あんたらのこの前の兵器をもう一度制作してくれ! 緊急事態だ!」


「何なんですか一体! いきなり入ってきてあんな物騒なものをつくレダなんて非常識ですよ!」


 非常識をシャーリーに説かれている事からこの男が非常に慌てていることが分かる。依頼料などの価格交渉も無しでいきなり『作ってくれ』だ。おそらくただ事ではないのだろうと思うが失礼だとも同時に思った。


「で、一体何があったんです? よほどのことなのでしょう?」


 水を一杯汲んできたシャーリーが男に飲ませたところで多少は落ち着いたのか会話が出来るようになった。


「と、とりあえず監視塔に来てくれ! 見てもらえば分かるはずだ!」


「落ち着きましょう、ね? 監視塔ですね、いきますからそんなに焦らないでください。ただでさえ自警団の人間が焦っていれば皆に不安を与えますよ?」


「あ……ああ、すまない。あまりのことに思わず……」


「その『あまりのこと』が監視塔に行けば分かるんですね?」


「ああ、仲間が大挙して監視中だからな」


「分かりました、あなたはしばらく休んでください、監視等にはおれとシャーリーで向かいます」


「すまない、頼んだ」


 それだけ言って通じたのだろう、男は気絶するように倒れてしまった。死んではいないようだ過緊張がよほど続いたようで意識を完全に無くしている。


「お兄ちゃん、何があったんだと思いますか?」


「魔物の大量発生か何かだろ。初めてじゃ無いんだ、冷静に対処するぞ」


 シャーリーも事態を重くは見ておらず、その程度の事なのだろうと頷いて俺たちは監視塔へ向かった。


 監視塔では大勢の自警団の人間が映像を眺めており俺が来ると途端にその道を空けた。


「二人とも……来てくれたのか。見てくれ、この町最大の脅威だ」


 そうして通された俺が映像を除くと小さな山ほどのサイズのあるドラゴンがのっそのっそと進んでいる映像が映っていた。初見ではドラゴンと気づけないくらい大きく、ゆっくりと動いていた。


「ドラゴン……ですか?」


「ああ、この監視塔の観測可能距離からしてあと三日もあればこの町にたどり着くだろう」


 なるほど、それであの人はあんなにパニックになっていたのか。ドラゴンとなると銃火器が必要になる相手だな……


「三日あれば国軍を動かせると思うのですが王様は何と?」


「『国軍への被害が大きすぎる、退去した民には補償をするので逃げろ』と言われたそうだ」


「逃げるつもりは?」


 俺は答えの分かっている質問をした。質問をしたと言うより覚悟を問いかけたといった方が正確だろうか?


「私はここで生まれ育った、離れる気は無い。ここに居る者達は皆そうだ。そしてアポロくん、シャーリーさん、君たちが我々の希望だ」


 やれやれ、随分と重い責任を負わされたものだな……山ほどあるドラゴンの討伐など英雄でもなかなかやらないぞ……


「お兄ちゃん! 引き受けますよ! 私とお兄ちゃんの思い出の町がトカゲごときに踏み荒らされてたまるもんですか! あのドラゴンには人類に逆らったことを後悔させてやりますよ!」


「うおおおおお」と自警団の面々から歓声が上がった。俺も覚悟を決めるしかないようだな。


「この前の固定砲台などでいいですか? 方角は……竜の巣がある方角ですね」


「ああ、東にあるドラゴンの生息地帯から来たものと思われている。この町への侵入を許すわけにはいかないのでどうか砲撃で撃退か討伐をして欲しい。その……金は出せないんだが……」


 そこでシャーリーが意外な言葉を口にした。


「お金は要りません。私とお兄ちゃんに喧嘩を売ることは万死に値します。私たちは私たちの敵を倒すのであってあなた方のために戦うのでは決してありません」


 シャーリーのやつ……覚悟を決めているな。これは俺も全力を出さないといけないな……死ぬかもな……でも……少なくとも、『逃げたやつ』にだけはなりたくない。


「東に砲台と対物ライフル、滑空砲をありったけ設置します。ただ……そうなるとこの勝負はどちらかが死ぬまで決して終わらなくなりますよ? いいんですね」


 そこに居る全員が深く頷いたので俺は町の東出口へと急いだ。


『滑空砲を設置します』


 ズモモと大量の大口径の砲口が生えてくる。


『固定砲台を設置します』


 ゴゴゴと以前のものより遙かに巨大な固定砲台がこちらも大量に生えてくる。


『対物ライフルを設置します』


 対物ライフルがズズズと地面から大量に生えてきた。これらの火器であの山ほどもあるドラゴンにどこまで立ち向かえるかは分からない、それでもただ死ぬだけと言うことは絶対にあり得なかった。傷を一つでも多くつけ、鱗を一枚でも剥がしてやる、その覚悟の表れだった。


「ドラゴン討伐戦! 始めますよ!」


 俺の言葉に全員が腕を上げて『応』と叫んだ。

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