第35話「静止衛星を作れるようになった」

『静止衛星を作れるようになりました』


 ん? なんだ? 聞いたことも無いようなものが作れるようになってしまうのは初めてでは無いがそれにしてもよく分からないものだ。


『多用途に用いることが出来る天に浮かぶ設備です。この町の上空に留まります』


 説明ご苦労様です。それにしてもさっぱり分からないものだ。これは一体なんなんだ? 天に浮かぶもの? そんなものが本当に制作可能なのか?


「お兄ちゃん、また新しいものが作れるようになったんですか?」


 もう呆れているようなシャーリーにスキルの解説をそのまま答える。シャーリーの方もさっぱりといった顔でポカンとしていた。


「天に浮かぶものって……星とかですかね?」


「分からん。ただ地上近くに出来るような物ではないだろうな」


「うーん……とりあえず作ってみるというのはどうでしょう? 幸い地上に土地が必要な物ではないようですし、制作しても誰にも迷惑がかからないのではないでしょうか?」


「それもそうだな、作ったから落ちてくるような物でもなさそうだし作ってみるか」


 俺はなにが出来るか分からないので庭に出て大きめのものが出てきてもいいように場所を取った。


『静止衛星を制作します』


 いつも通りに制作が進むのかと思ったら思わぬ言葉が頭に響いた。


『効率のため静止軌道で制作を開始します』


 そのメッセージと共に光の帯が上空に向けて伸びていった。その先端が見えないほど遠くに伸びていってから制作をしているようだった。思った以上に大事になってしまうのかもしれないな。そう思ったが、幸いなにを作っているかはシャーリーにしか伝えていないので問題になることはないだろう。


「しかし上空って言っても限度があるだろ……」


 その光は鳥が飛ぶほどの上空どころか、星が浮かんでいそうな遠距離まで伸びきっていた。これは町作りスキルの中でもトンデモ無いものが作られているのは勘の悪い俺でも予想が付いた。下手をすれば領主の怒りに触れかねない、そんなとんでもない物ができているような予感があった。


 それはたっぷり昼食をシャーリーが作っている間中光の帯の先で制作を続けられ、やっとの事で完成したのだった。しかしそれでなにが出来るわけでも無く『権限不足のため使用不可』とスキルの説明が頭の中で響いた。どうやらこれは本当に外れスキルなのではないだろうか? そう思える現象だった。


「お兄ちゃん、出来たんですか?」


 シャーリーがそう問いかけてきたので『多分……』と我ながら煮え切らない返事をしておいた。少なくとも現在は使用不可なので制作しただけの意味の無い建造物であることだけは理解できた。


「なにが出来たかは知りませんけどね、お昼ご飯にしませんか? 使い道が無かったんでしょう?」


「勘がいいな、まだ何の機能も使えないそうだ」


「お兄ちゃんもやっぱり当たりスキルがあっても人間ですね! そういう凡人っぽいところがあると安心しますよ?」


「馬鹿にしてんのかよ……」


 シャーリーはクスクス笑って言う。


「お兄ちゃんが身近に感じられて嬉しいって話ですよ。何でも出来る完璧超人よりたまには失敗もした方が人間らしいですからね!」


「やっぱ馬鹿にしてんだろ……」


 そんなやりとりをしながら昼食を食べた。シャーリーも新しい建築物に期待していたのか、結構豪華な料理だったので期待を裏切って申し訳ない気がした。


「ま、残念会って事で! パーッと食べちゃってください!」


 やれやれ、妹には勝てないな……


 俺は肉を一切れ口に入れると悩みの方は忘れることにした。今まで作れるようになったものだって食べて行くには十分だ。贅沢を言わなければ井戸だけでも生活が出来るくらいなので、俺がもらったのは十分に当たりスキルなのだろう。そう思っても心のどこかが、あの『静止衛星』の活躍する日がいつか来ることを予感していた。


 その晩、俺が寝ようとしたところでシャーリーがパジャマを着てやってきた。


「お兄ちゃん、隣で寝かせてください」


「いいよ」


 俺はどうかしたのだろうか? 妹の添い寝を許可した。そこにはたっぷりの不安と謎と、未知への恐怖が含まれていたのだろう。今はただ、一人になるのが怖かった。上空にある静止衛星がなにをするのか不安でしょうが無いのだった。


 しかしそれが活躍するとしたら、きっと大層物騒な事態なのだろうなと予想が付いた。

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