第34話「不穏な気配」

「あの町の噂は本当でした。あの兄妹を放置しておくのは危険かと思われます」


「ふむ……君の報告は確かに受け取ったが、彼らは『涸れない井戸』を作れるだけなのだろう? 我々の敵になるとは思えんがね」


「彼ら兄妹が建造可能な者は増加の一途を辿っています。頑丈な建物や入れたものが傷まない食料保管庫なども制作しているようです」


「どう思うかね? 私は気にならないと思うのだが」


「族長、あなたの意見が全てです。我々竜族にとって危険かどうかを判断なさるのはあなたです」


「分かっておる。その上で皆の意見が欲しいのじゃ、このような老いぼれの勘などあてにはならんわ」


「私は危険だと思われます。ゴブリンがあの町の自警団に全滅させられたことがありましたが、あの兄妹が関わっていると思われます」


「何故じゃ?」


「あの町は見て回りましたが自警団にゴブリンをあそこまで破滅的に殲滅する力は無いと思われるからです」


「貴様は人間側のスパイだろう、どこまで信用できるものか……」


「やめんか! ここではワシ以外皆平等に意見を出せる場じゃ、それは体が人間とて例外ではない」


「では一匹我らの中でも実力のある者を送り込みましょう、我々と渡り合うことが出来たなら不可侵条約を結ぶというのはどうでしょう?」


「竜と人が平等な条約を結ぶだと! 我々を侮辱した意見だ!」


「しかし伝説にも時折現れるだろう、我々にとって恐怖の対象となっている『ドラゴンスレイヤー』が……な」


「アレが我々の天敵だとでも言う気か! 気でも触れたのか?」


「やめんか、人の恐ろしいところは年齢や見た目などで判断できんことじゃ。ふむ措置の案を採用しよう。ドラゴンを一人ばかり派遣してその者が負けたのなら不可侵条約を結ぶ。それで文句はないな?」


 族長の意志決定に文句など出るはずはなく、流速の元老院はあの町へドラゴンの一帯を派遣することを決定した。

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