第37話「死闘の始まり」
「避難してください! 早く!」
自警団の皆は、俺の制作した兵器達を超える戦力になれないと早々に判断して町民の避難を急いでいた。全員を西の端へ連れて行き俺の制作した立方体のコンクリート製避難所に誘導をしていた。ドラゴンが来たと言うことに驚いた人は多かったものの、今まで非常識なことが難度も起きているため、非難は落ち着いて順調に進んだ。おあつらえ向きの避難所が都合良く作られていることに疑問を呈するものも居なかった。
俺は長射程の滑空砲と固定砲台をさらに大量に設置していた。町におけるギリギリの数を設置していった。相手は山ほどもある相手だ。この程度の兵器では殺しきるのは不可能かもしれないと思える。それでも俺はできることはあらゆることをやってベストを尽くすつもりだった。
「お兄ちゃん! こっちに一基作れそうなスペースがありますよ!」
「今行く!」
シャーリーも逃げてもいいと言ったのだが逃げるつもりは微塵も無いようで戦う気満々で俺に協力していた。
「ドラゴンが来るまであと二日ですね……」
「ああ、そうだな」
会話も悲観的なモノになってしまう。
「お兄ちゃん、勝てる算段はありますか?」
「ねえよ、ありったけの弾をぶち込む、それくらいしか考えてない」
「でしょうね、分の悪い勝負なのは私も分かっています。でも……お兄ちゃんがいるならなんだって怖くありません! 喜んで私は戦いますよ! お兄ちゃんとの日々を守るためにね!」
「……」
「お兄ちゃん?」
「……俺は……正直に言うならシャーリーには逃げて欲しい。死ににいくようなものだぞ? お前は本当にそれでいいのかよ!」
シャーリーは目尻に涙を浮かべて俺に訴えた。
「いいわけないじゃないですか! でも……それでもお兄ちゃんを失った世界を生きるくらいならお兄ちゃんと一緒に全力で戦って死んだ方がマシです!」
その目には僅かばかりの迷いも感じられなかった。今や俺のスキルに町の全員の命がかかっている。どんなに勝ち目の薄い戦いであっても逃げることは出来ない。そりゃあ本音を言えば逃げることも考えたさ! それでも! 故郷を捨てて、皆散り散りになって町の事なんて忘れて生きていくのだけはいやだ! 俺は戦うことしか出来ない、だったら存分に戦ってやろうじゃないか! あのクソドラゴンに目にもの見せてやるよ! 人間様の意地を見せてやる!
「お兄ちゃん、そろそろ寝ましょう」
「俺は寝るわけには……」
「明日は徹夜仕事ですよ、今日寝ないと明日まともに動けなくなりますよ」
「分かった」
俺は最後になるかもしれないこの町での就寝をすることになった。今日は当然のようにシャーリーが俺のベッドに潜り込んでいたが黙ってそのまま入れておいてやった。誰だって不安だろう。俺たちには出来ることをやるしかないのだから、せめて精神面だけでも休ませてやりたかった。
翌日、あまり質が良いとは言えない睡眠を取ってから起きるとシャーリーが朝ご飯を用意してくれていた。
「材料は皆さんが寄付してくれました。どうせ今は使い道が無いまま痛むから食べてしまってくれとのことです」
「そうか……」
俺は牛乳やフルーツ、肉も魚も料理はありったけを食べた。腹が膨れて破裂するのではないかと言うほどに大量に食べていた。それでも昨日の緊張感から腹の中は空っぽだったようで全部食べてようやく満腹になるほどだった。
「お兄ちゃん、今日は?」
「町の外、ギリギリ設置可能な範囲に兵器を設置していく」
「もうかなりギリギリに置いてますけどね」
「出来ることは何だってやるさ」
「ですね、私たちに出来ることは最善を尽くすだけですからね」
もうすでに町の中には大量の兵器を設置していた。あと設置できそうな場所はスキルが町と認定する境界付近、町を僅かに離れた外の部分だった。
俺たちは町の東に向かい今度は町の外の僅かなスペースに砲台を設置していった。滑空砲は威力が高いとスキルが解説していたが、それをどこまで信用していいものかは分からなかった。
ミッチリと兵器が並ぶ様は小さな生き物が巨大生物に対抗して協力している様を思い起こさせた。その時人間は観察する側だったが、今回は思い切り当事者だ。ちっぽけな人間がドラゴンに意地を見せる。その機会のために粛々と準備を進め、一歩でも前進を遅らせ、一滴でも血を流させ、一発でも多くの攻撃を叩きつけることを目的にしていた。
勝ち目が無い、そんなことは大半の人間が分かっているが、誰もが人間がドラゴンに意地を見せてやると意思を統一していた。俺たちに出来るのは戦うことだけだ。ドラゴン相手には人間同士の争いのように服従は通用しない。動かない虫けらを踏み潰すだけだろう、それだけドラゴンと人間には差があった。
「お兄ちゃん、ここにギリギリ対物ライフルを設置できそうです」
「分かった」
『対物ライフルを設置します』
そこには実際に設置することが出来た。しかしそこが最後のスペースだった。もはや兵器を置く場所は無い。
兵器達は割と広くに設置したのだが、全武器が一点を向いてピクリとも動こうとしなかった。そちらの方向に何があるかは俺には痛いほど分かった。人類には到底立ち向かうことが出来ない種として上位に立っているドラゴン、それと戦うために人間が全力を出している。剣神も賢者も居ない、『町作り』というよく分からないスキルを持った俺だけで、いや、おれとシャーリーだけでドラゴンと死闘を繰り広げることになっていた。
そう都合良く便利なスキルを持った人間が現れてくれるわけは無い。魔王が現れたときに勇者が都合良く現れるのは物語の中だけだ。これは俺たち人間のプライドをかけた、ドラゴンにとっては通り道を踏み潰していくだけの、まったく非対称な戦いだった。
ドラゴンからすれば人間など足元でプチプチ騒いで踏み潰していくだけの存在でしか無い。そのちっぽけな存在が今、反撃をしようとしていた。
ズゥン……
山が揺れ空気が震えた。
「お兄ちゃん、始まりますよ」
「ああ、戦いの始まりだ!」
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