第28話「自警団が表彰されていた」

「お兄ちゃん! 大変です!」


 食後のアンニュイな時間にシャーリーが俺に飛びついて大声で大変です! と騒ぎ立てた。昼寝が出来るかどうかの意識が落ちる寸前のことだったので、勘弁してくれ……と思いながら話を聞いた。


「この前ゴブリンを大量にぶっ殺したじゃないですか?」


「言い方が物騒だぞ……間違ってないけどさ……」


 シャーリーに言葉を柔らかくするなどと言うことを求めてもしょうがないのは分かっているのだが、それにしても直球な表現だった。


「お兄ちゃんはまだこれを見ていないんですか? これはタダ乗り行為ですよ!」


 そう言ってシャーリーの差し出してきた紙は、領主からのこの町への広報誌だった。定期的に様々な町の状況を伝えたり、納税額が多い街を賞賛したりしている何の変哲もない紙だ。


「これがどうしたんだよ?」


 俺がそう尋ねるとシャーリーは鼻息も荒く隅っこに書かれていた記事を指さした。


 俺はその細かい記事を読んでみると……


『優秀な自警団として表彰! ゴブリンの群れを領主に頼らず殲滅』


 もうそこまで読んで内容が予想出来たので神を押し返した。


「別にいいだろ、このくらい。きちんとこういう事も想定内で代金をもらったんだろ?」


「お兄ちゃんの功績が自警団に横取りされているんですよ! これが許されていいでしょうか? いや、そんなはずはない!」


「血気盛んなところで何だが昼飯を食べようぜ。自警団もあの調子じゃあボロが出そうだし、そういう面倒なことに関わりたくないんだよな」


「おっと、怒りにまかせて優雅なお昼ご飯を乱してしまいましたね……朝これを見てキレそうになったもので……」


 どこら辺が優雅なんだろうか? ブチ切れ状態だったじゃねえか、優雅さの欠片も無かったぞ。感情丸出しにしていたシャーリーは一口紅茶を飲んで自分を落ち着けていた。


「私としてはお兄ちゃんの偉業を騙られるのが気に食わないと言いますか……納得がいかないと言いますか」


 俺のために怒ってくれているのは結構なことだが世の中の平和を乱す必要も無い。わざわざ領主相手に顔を潰してトラブルを作る必要も無いだろう。なによりそういう面倒なことを自警団が代理でやってくれるならそれを否定する必要は無い。自警団は名誉を奪っているのでは無く、面倒なことを代行してくれているのだ。


「俺は気にしてないからシャーリーも一々目くじらを立ててやるな。自警団の奴らが領主の接待をしてくれたと思えば気にもならないだろう?」


「領主の接待?」


「書いてあったろ? 『表彰』されたってさ。俺はそういうのは好きじゃないから代わりに表彰してもらってくれたって思ってるよ」


 シャーリーは毒気を抜かれた顔で無表情になってから『お兄ちゃんは目立つのが嫌いなんですね……』とぼそぼそ言いながら昼ご飯を食べることに戻った。広報には報奨金も出たと書いてあったが、私兵団を派遣する必要が無かったからその分おまけをくれる程度だろう。シャーリーがいくら取ったのかは知らないが報奨金と比べて少なすぎると言うことは無いだろう。


 そしてそこでその広報誌にイメージアップにはつながらないであろう、ゴブリンの殺戮跡地を写真で載せていたので、これはご飯時に読むようなものではないなとその紙をたたんでポイとソファに投げておいた。


 昼食後、シャーリーは相変わらず血気盛んだったが、表彰ももう終わったことであり、今さら真実を話すことにメリットはないという俺の言葉に納得をしてくれた。


「しかしシャーリー、そんな紙をよく見つけてきたな?」


 広報誌などという不人気冊子をわざわざ入手してきてそれを隅々まで読んでご丁寧に隅の方に小さく書かれている記事に気がついたわけだ。普通はそんなもの読もうとは思わないので、町役場に山と積まれている冊子なのでよく気がついたなと言いたい。


「なんだか最近自警団の人たちが町で私の行くような少し高めの食材を売っている店に来ていましたからね。偉そうな人はカフェテラスで朝から軽くお酒を飲んでいましてね、怪しいなと思って調べた結果ですよ」


 人の贅沢なんて自由じゃないだろうか? 一々そんなこと気になるかな? 普通はなんか景気の良いことがあったのだろうなくらいですむだろうに、それを調査しようと思うところがシャーリーらしいな。


「それでお兄ちゃん、自警団が表彰ついでに領主様の私兵団に稽古をつけるらしいんですよ」


 俺は読み終わっていたはずだった紙を拾って広げ、内容をよく読んでみた。


『自警団の皆様が領主様の私兵達に稽古をするイベントが予定されています』と書かれていた。これはやってしまったなあ……


「これ、絶対失敗する奴だよな……?」


「でしょうね……まあ自警団の皆さんにはいい躾じゃないですか? 安易に人の功績を乗っ取る事が危険だってよくよく分かったでしょう」


 そして翌日……自警団は皆して死んだ目をして稽古をつける部隊が町を発っていった。後日、この町の近くに出たゴブリンの集団はレッサーゴブリンか何かの劣等種ではなかったのかという噂がまことしやかに流れたのだが、あいにくそのゴブリン達は検証不可能な肉塊にされていたので何とか自警団の面目は保たれたのだった。

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