第25話「結界の稼働確認」
「お兄ちゃん! 町の外で逢い引きをしましょう!」
今日は朝からシャーリーが飛び込んできたのは同じだが、ちゃんと表に出ても問題な衣服を着ている。そして俺に飛びついて起こしたりはしない。綺麗なブロンドの髪をしっかりといて準備はいつでも出来ていると主張している。
「なんで逢い引き……しかも町の外でなんだ?」
「結界がきちんと張られているか確認しろと自警団に言われましてね。理由も無く外に出るのは怪しいので、逢い引きを装って、町の周囲に敵がいないことを確認してきてくれとのことです」
「なるほど、大体分かった。だけど……」
「なんです?」
「逢い引きを装うのはお前の提案だろう?」
そんな細かい設定まで自警団が指定してきたとも思えない。コイツが準備万端で楽しそうにしていることからそうとしか思えないんだよな。
「お兄ちゃんは細かいところを気にしすぎです! 逢い引きだろうが逢瀬だろうがとにかく町から出る理由があればいいんですよ! ほら、お弁当も作ってありますから行きますよ!」
シャーリーは自分で決めたこととは意地でも認めるつもりが無いようで、俺はその手に引かれるまま町の出口まで来た。
「さて、結界は無事作動しているか……」
「心配しすぎですよ、お兄ちゃんが作ったものなので私はちゃんと信頼していますよ」
どこまでも妹の信頼が重い。俺のスキルに命をかけると言っているに等しい発言を平気な顔をしてするシャーリーに対して、俺はそこまでの覚悟は持てないな。
「さてお兄ちゃん! 草原でランチを食べましょう!」
そう言って町の外へ踏み出した。町の外は平原になっており、久しぶりに出てきたような気がする。両親は平気な顔をして魔物を狩ってきてたんだよな……改めてあの二人の強さが分かる。
「見てください! スライムがいますよ!」
粘着質の球形の魔物はこちらを見つけるなり向かってきた。
「シャーリー!」
俺がシャーリーの前に立ったのだが、飛びかかってきたスライムは俺に触れる前に何も無い空間で蒸発した。
ポカンとしてみていたらシャーリーが俺に言葉をかけてきた。
「ね? 結界はちゃんと動いているでしょう?」
「お前、なんでそこまで俺の建築物を信頼出来るんだ? 俺だって危ないと思ったぞ?」
「お兄ちゃんの作ったものを疑うなど私にあり得るはずが無いでしょう!」
断言出来る根拠がまるで無いのにどこまでも自信を持って言うと妙な説得力があった。暴論でも断言されると案外そうなのかと思ってしまう。
「さて、ここが結界の境界みたいですね。ではこちら側でお昼を食べましょうか」
そう言ってランチボックスを広げるシャーリー。魔物が近くにいるというのに良い度胸をしている。
「お兄ちゃん、あーん」
「恥ずかしいだろ……」
「こんなところなんて誰も見てませんよ」
俺は口を開けてシャーリーにパンをちぎって口に入れてもらった。恥ずかしいのだが、パンはそれなりの品のようでしっかりと美味しかった。
「グルルルル……」
ゾンビドッグがこちらにむかっと飛びかかってきたが、境界で綺麗に光の粒子になって消えていった。
「綺麗ですねえ……」
「そうだな、元がゾンビじゃなけりゃもっと綺麗だっただろうな」
内臓が見えているゾンビだったが光になって消えていくのは同じようだ。死は誰に対しても平等であるようだ。もっとも、ゾンビの時点で一度死んだ犬なわけではあるのだが……
「うんうん、お兄ちゃん謹製の結界はきちんと稼働しているようですね!」
「そうだな、自警団の連中もさぞ喜ぶだろうさ」
アイツらが討伐するべきものを俺たちが消しているのだから報酬はたっぷりもらって当然だったのかもしれないな。
「この卵焼きを食べてください! 今日の自信作です!」
俺はフォークでそれを刺して口に運ぶ。甘塩っぱい味が絶妙で、ただ甘いだけではなく僅かな塩気で口中の甘みを強調している。
「美味いな、塩と砂糖の具合が絶妙だ」
「そうでしょう! 朝日が上がる前から丁寧に作りましたからね!」
「そこまで無理をしなくてもいいぞ。あんまり無理をすると体を壊すぞ?」
そう心配をするとシャーリーは微笑んだ。
「お兄ちゃんが全部作っているのに私はなにもせずマネージャーをやっているなんてかっこ悪いじゃないですか……」
やれやれ、こんなところで面倒な性格をしなくてもいいんだよ……
「俺はシャーリーにちゃんと感謝しているし、それを否定して欲しくはないかな」
「お兄ちゃん……!」
俺に抱きついてきたシャーリーの頭を撫でて少しだけ泣かせてやった。落ち着いたらいつもの調子で俺に『今のことは忘れるように』と言ってきたので、もう大丈夫だなと判断した。
「では帰るとしましょうか! お兄ちゃんの結界は完璧に作動している、それがきちんと確認出来ましたしね!」
「そうだな、今頃サボってる連中に正常稼働していると伝えてやるか」
自警団もこれでほとんどの敵に負けることは無いので問題無いだろう。この町の周辺に結界を敗れる魔物は滅多にいない。まさかオーガが出るようなこともないだろう。
二人でランチボックスを持って町に帰り自警団の本部に向かった。
「お二人ともご苦労様です。結界は正常でしたか?」
「ええ、近づいた魔物を綺麗さっぱり消していましたよ」
そう言ってシャーリーは手を差し出す。
「お賃金、もらえますよね?」
「……はい」
渋々ながら職員は小さな袋を一つシャーリーに手渡した。顔が引きつっているところを見ると中身は金貨なのだろう。
「アポロさん、結界発生装置の制作ありがとうございます。おかげさまで私たちもポーションの消費がほとんど無くなりました」
「それは良かったですね。俺はやることをやっただけですよ」
「お兄ちゃんの実力が分かりましたね? でしたらお兄ちゃんに依頼を遠慮なく出してくださいね!」
シャーリーは営業を欠かさない。
「ありがとうございした!」
俺は自警団の詰め所を出て、その日の夕食が少し豪華になる事を予想していた。そして予想通りに美味しい食事が出たので、妹の多少のわがままは許してやろうと思えるのだった。
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