第24話「結界発生装置を作れるようになった」

『スキル使用により『結界発生装置』が作成出来るようになりました』


「お! その顔は何か新しく作れるようになった顔ですね!」


「人の寝起きの顔を観察している暇があったらまともな服に着替えてこい」


 レースの服を着たシャーリーを追い返してなにが作れるようなったか振り返ってみる。夢の中の声を信じるならば何かの結界が作れるのだろう。町を守るものであることはほぼ間違いないのだが、どんな結界が張られるのか分からないので答えが欲しいところだ。


『下級な魔物は通れなくなる結界です、範囲は町一帯』


 どうやらスキルもなかなか融通が利くようになってくれたらしい。結界の効果を説明してくれた。自警団に売り込むくらいしか使い道の思いつかないものだが、いざというときに役立つのは確かだろう。


 俺がキッチンに向かおうとしたところで部屋のドアが開いた。そこにはまともな服を着たシャーリーが立っていた。


「それでお兄ちゃん! なにが作れるようになったんです?」


「お前は焦りすぎだ、この前の監視塔でかなり稼いだんだろう? そう焦るんじゃない」


 どうせこの前の金額は結構なものであることが分かっているんだからな。


「そんな~お兄ちゃん……教えてくれませんか?」


 俺の手を取り自分の胸の谷間に押しつけて俺にそう問いかけてくる。兄としてそう言う行動をどこで覚えてくるのか不安になるんだが、妹が健全に育ってくれることをどうか祈りたい。手遅れかもしれんけど……


「お兄ちゃん……ダメですか?」


 手を握る力が強くなった。普通に手が痛いくらいだ。そう考えていたら手が本当に痛くなってきた。


「だ・め・で・す・か?」


「痛いって! 分かったから離してくれ!」


 色仕掛けかと思ったら力技だったことにどこかホッとした。それにしても力押しにもほどがあるだろう、シャーリーは自分で戦えるんじゃないだろうかと思えてくるくらいの力だった。


「では新しくなにが作れるようになったか詳らかにご説明していただきましょうか!」


「結界発生装置だよ、要するに魔物避けだ」


「魔物払いが出来るんですか? 結構需要はありそうですね」


「言っておくが町一帯が効果範囲だから大量に売れるような物じゃないぞ? 町に一つ作っておけば安心出来るものだ」


「ほうほう……なかなか使い道がありそうですね……」


『サイズは家一軒分になります』


 丁度良いタイミングで解説してきてくれるスキル。このスキル突然気が利くようになったな。


「家一軒のサイズだから建てる場所が限られるし、売れそうな物じゃないぞ」


 空き地はそれくらいあるかもしれないが、建てるだけならともかく、収益でプラスにしようと思えば結構な金額が欲しいところだ。現在町が安全なので需要がそれほどあるとも思えなかった。


「ではお兄ちゃん! 私が営業してきますので気ままに待っていてください!」


 さすがに売れるとは思えないものを販売に行ったシャーリーを見送って俺はキッチンに行って朝食を食べた。シャーリーは急いではいたようだがしっかり朝食が作られていたので配慮の出来る妹なのだろう。


 朝食を食べながら結界の需要が誰にあるのか考えてみる。


 まず自警団は仕事がなくなるので制作を嫌うだろう。しかし強い魔物は抜けられる結界らしいが、そこまで強いと国軍や領主様に支援を求めることになる。そこは自警団の仕事ではない。単純に仕事を奪うだけになるので嫌われるだろう。


 町長についてはあの塔だけで満足げに頷いていたので望み薄だ。町長の名誉欲から作りたがる可能性は無くはないのだが、シャーリーが値段を設定するので多分支払いが難しい金額を提示するだろう、アイツはそういう奴だ。その点においては信頼を置いている。


 しかし昼を過ぎてもシャーリーは帰ってこなかった。商材の売りにくさからすれば苦労しているのだろうし、俺に売れたと報告に来れないのも分かる。だが昼に顔も見せずに営業には知っている様はあまり想像がつかなかった。


 そして帰ってきたのは夕方になってだった。


「お兄ちゃん! 自警団から契約取れましたよ!」


「自警団から!? 嘘だろ!?」


 結界が出来て一番損をする奴らじゃないか。しかしシャーリーの微塵も迷いのない瞳からそれが嘘でないことは理解出来た。


「なんで自警団がそんなものを……自分たちの仕事がなくなるだろ?」


「だからこっそり作ってくれと言われました。幸い町外れに空き家が一軒あるのでそこを空にして中に設置しておけば気づかれることなく自分たちの仕事が減るとそそのかしたら乗ってきてくれましたよ!」


「お前……なかなかのワルだな……」


 自警団の職務放棄に協力するのか……しかしシャーリーがもう営業で案件を取ってきてしまったようだし今さら『やっぱ無しで』とは言いづらい。それも込みで、自分一人で交渉していたならシャーリーはかなりの策士だな。しかしコイツがそれほど深く考えているとはどうにも思えないので売れそうなところに売ったというところだろう。


 なんだか悪いことをするような気がして後ろめたいな……


「お兄ちゃん! 結構高値をつけてもらいましたよ! 褒めてくれていいんですよ?」


「えらいえらい」


 俺はシャーリーを適当に褒めながら今度作るものについて考えていた。


「あ、お兄ちゃん! 人目は少ない方が良いという事で本日夜に結界発生装置の政策は実行されることになりました、なので準備しておいてくださいね?」


「明らかに自警団も後ろめたいんじゃねえか! だったらそんな誘いに乗るなよ!」


 シャーリーが俺の肩に手を置き諭すように言った。


「お兄ちゃん『水は低い方に流れる』んですよ」


「それは人としてどうかと思う例えなんだがなあ……」


「町の人にばれるとマズいので黒ずくめで目立たないように夜に来てくれって話ですから準備しておきましょうね!」


「自警団もクズ行為をしようとしている自覚はあるんだな……」


 そして夜になって町の明かりも消えた頃、俺とシャーリーは黒い服を着て闇に紛れて町外れの空き家に向かった。


 幸いなことに誰かと鉢合わせることもなく無事町外れまで着いたのだが、自警団の連中が黒服で待っていた。


「待っていたよ、シャーリー、アポロ。空き家の中はすっかり綺麗にしてある。あとは装置を作ってもらうだけだ」


 準備万端なクズ、という言葉が思い浮かんだ。コイツらは楽をするためには多少の苦労は厭わない連中なのだろう。俺は指示された空っぽの家屋に入った。中は最低限見た目を保つだけの柱が残っており、他のものは綺麗さっぱり消え去っていた。自警団が片付けたのだろう、準備のいいことだ。


『結界発生装置を制作します』


 ぱあっと虹色に光り輝いて家の中に高炉のような物が出来て淡い光を放っていた。光が見える窓の隣に『稼働中』と光が文字となって輝いていた。


「終わったのか?」


 設置を待っていた男がそう声をかけてきた。


「ええ、つつがなく完璧に出来ています」


「素晴らしい! 妹さんに結構な金を払った甲斐がフゴォ……」


「口は災いの元ですよ?」


 男にシャーリーの腹パンが入って悶絶することになった。一体いくら取ったのだろうか? 少なくとも気軽に口外出来るような金額ではないことは間違いない。


「なあシャーリー、いくらもらったんだ……?」


「お兄ちゃん、ですよね?」


「アッハイ」


 圧に負けて黙り込んでしまった。シャーリーの迫力には勝てない。圧が強すぎるぞこの妹は……


「さてお兄ちゃん、美味しい晩ご飯を食べましょうか? それとも私の怒りに触れたいですか?」


 俺は迷うことがなかった。


「いやー! 料理上手な妹がいて良かったなー! 美味しいご飯が食べられるのはシャーリーのおかげだよ! いつも感謝しているんだよなあ!」


「よろしい」


 何がよろしいのかは知らないが、とにかく機嫌を取ることには成功したので遅めの夕食を取ることになった。帰宅後、一体いくら稼いだのかはついぞ聞けなかったのだが、夕食の肉が上質なものを使っていたのでおそらくかなりもらったのだろうと推測して、きちんと家庭のために使うなら額は気にしないことにしようと思った。

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