第23話「高層建造物を建てられるようになった」
『監視塔を建てられるようになりました』
朝食後ののんびりしているときにその天啓が響いてきた。また何か作れるようになったようだが、さすがに使い道の無いものを建てられるようになっても困る。
「お兄ちゃん? どうかしたんですか?」
「ああ、いや、使い道の無いものが作れるようになったんでな……」
俺が何気なくそう言うとシャーリーはその言葉に食いついてきた。
「何ですか!? なにが作れるようになったんですか?」
また商売にする気かよ、こんなもの町に一本あれば済むものだし、需要がないだろ需要がさ。
「監視塔だ」
「かんしとう?」
「そうだよ、なにが出来るか分からんがこんなものに用があるのは自警団くらいだろう? そしてこれが二本も三本も必要とは思えないだろ? 一本だけ建てるようなものが必要だとは思えないんだよ」
性能はそれなりに良いのだろう、それは理解する。それはそれとして監視塔など町に数本建てるものではない。他の町では建てられないだろうし、ということは需要が一本だけということになる。多少の金で一本建てても美味しい商売ではない。町のために建てておこうという考え方をしている人もいるのかもしれないが、俺はいざとなったら軍事設備を制作して撃退すれば良いのではないかと思っているので、監視塔を建てるような気にはなれなかった。
「お兄ちゃん、私はちょっと自警団に営業してきますね! お昼までには帰ってきますので期待して待っていてください!」
そういって大急ぎで支度をして家を出て行ってしまった。シャーリーの営業力はすごい者があるので信頼しているのだが、こんな者を建てろと言われても面倒なだけなのだよなあ……出来れば金銭面を理由に自警団がお断りしてくれると楽で助かるんだよな。
しかし監視塔ってどんな物が出来るのだろうか? ただの高い塔だろうか? だとしたら格安で建てられる以外のメリットはないと思うのだが、まあこのスキルで建てるのだからごく普通のものではないのだろう。きっと俺の考えのおよばないような物が出来るはずだ。この町の目立つ建物の一軒になるのは確定だろうな。
そしてシャーリーは昼前に帰ってきた。偉そうな人を連れて……よくよく見ると町長のヴォルテールさんだった。
俺がケチな爺さんが現れたことに身構えていると町長は静かに頭を下げた。
「アポロくん、この前はすまなかった。今回は町として正式に頼みたい。町から報酬が支払われるので報酬の心配は必要無いよ」
「は、はぁ……」
思わぬ人間の出現に俺は面食らってしまった。この人が出てきたということは監視塔を町のために建てるということになる。町のためなどという重い責任を負いたくはないのだが、横でシャーリーがしてやったりという顔をしているので断るわけにもいかないのだろう。俺は渋々ながら頷いた。
「町の中央にちょうど狭い空き地があるのだが、そこに建てられるかね?」
「多分建てられますよ、スキルの方がよしなにしてくれる傾向がありますから」
「傾向とは……まあ君のスキルがすごいと私のところまで上がってきている話も多いし信用しよう。それで報酬は「わーわー!」」
「シャーリー?」
シャーリーが町長に耳打ちすると町長は黙り込んで報酬の話はしなくなった。どうやら二人で内密に報酬を決めたらしい。多分決めたのがシャーリーなのだから結構高い方に破格の値段をつけたのだろう。俺にとって損をするような交渉をする奴でもないので信じることにしようか。
「では建設予定地に案内しようか」
「予定地って……作るのが決まったのは今日でしょう? そんな旧に土地が使えるわけが……」
町長はクックックと低く笑って俺の問いに答えた。
「問題無い、なにしろワシの土地じゃからの」
なるほど、土地は町長の持ち出しか。自分の土地になにを建てようと自由というわけだ。しかしシャーリーも都合良くそんな所を見つけるのは才能といってもいいのではないだろうか。
そして家を出て町の中央へと歩いて行く道中には、町長の自慢話を延々と聞かされた。いかに自分がこの町に貢献したか、いかに自分が苦労したかなどの話を奄々とされてしまった。それには閉口したものの、それなりの報酬が出る案件ならそのくらいは我慢してあげよう。
「町長、お待ちしておりました」
「うむ、ご苦労」
自警団が数人集まっており、もうすでにここに建てることは確定しているから運用をさせる人たちを集めたのだろう。準備の良いことだが、町長がそこまで俺のスキルに詳しいとは思えないのでおそらくシャーリーの入れ知恵だろう。
「アポロさん、ではこの敷地に建てていただけますか」
指さされた場所は正方形の空き地で、一辺が人の背丈二人分くらいしか無かった。このくらいで建てられるのだろうか?
「じゃあ建ててみますね」
『監視塔を制作します』
出来るのか……
どうやらこのスペースがあれば十分建てられるらしく、スキルは無事発動した。しかし建築されたのは驚きのものだった。正方形の土地がそのまま上に伸びていき、真四角の塔があっという間に出来上がった。予想外の形にこれはなんだと議論になった。地面付近には一面に一つガラス板がついている。その横にボタンが付いていたので俺は押してみることにした。
ブウンと低い音を立て、とても高いところから地平線まで見渡している映像が映された。
「おお! これが監視塔の仕組みか!!」
自警団の人たちは四面についているガラス板に塔の頂点からの眺望を感心しながら見ていた。どうやら監視塔とはこのモノリスのようなものから遠くまで見渡すことができるものらしい。結構便利だな。
そう思っていると自警団の一人が重そうな四角い石を持ってきて塔の前に置いた。そこには『ヴォルテール町長記念監視塔』と彫り込まれていた。大急ぎで作ったんだろうな……なるほど、町長が自分持ちで建物を建てるなど妙な話だと思ったのだが、自分の功績にしたかったわけか。
しかしシャーリーが始終ニコニコしているところから察するに結構な金額で受注したのだろうから俺たちに文句はない。精々有効活用してくれれば良いなと思う程度だ。
「ありがとう、アポロくん、シャーリーさん」
「いえ、このくらいは簡単ですよ。ただ……二本はこの町に必要なさそうですね」
「ああ、この塔が複数本必要になるとは思わんな。まあ土地を提供するモノもオランだろうしこの塔を自警団に有効活用してもらおうではないか!」
ガハハと笑って町長は石碑を眺めていた。その顔は非常に満足げだったので初めから金をしっかり払っておけばいいのにと思った。
「ではお兄ちゃん、建てるのは終わりましたし、帰りましょうか!」
「ああ、そうだな」
そして帰宅したのだが、即座にシャーリーは部屋にこもり、出てきたかと思ったら貼り紙を追加していた。それを見てみると『あの塔を作った!』と追記されていた。どうやらとことん目立つのが好きな妹のようだった。
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