第13話「家屋を作れるようになった」

 これは……夢? 自分で夢の中にいることがはっきり分かった。しかし何故夢がこれほどはっきり見えているのかは分からなかった。


「スキルが進化しました『家屋の制作』が可能になりました」


 そこで俺の意識は落ちた。


「ふぁ……」


 クッソ眠いのだが、毎朝の妹からの襲撃がしつこいので先に起きてしまうことにした。早くから寝たのでそれなりの時間は寝たのだが、やはり早起きというのは眠いものだ。


「お兄ちゃん! 自分から起きてきたんですか!?」


「まるで自分から起きるのが珍しいみたいにいうのやめてくれないかな? 人がゆっくり寝たいところへ突撃してくるから起きてるだけだよ」


「むぅ……今日こそって思ってたのに……」


「はいはい、とりあえず着替えてきたらどうだ?」


 妹は現在下着にレースの服という思い切り透けている服を着ている。この家で誰に見せるつもりなのかは甚だ疑問だが、こだわりというものがあるのだろう。


 部屋に戻っていくシャーリーを見送り俺は朝食の席に着く。パンにチーズが乗っており、肉と魚が付いている。結構豪華な朝食だった。


「お兄ちゃんお待たせー!」


「早かったな」


「お兄ちゃんには見せられましたからね、目的は達成しました」


「そうか」


 細々したことを質問するのはやめておいた。本人が満足ならそれでいいだろう。


「厩舎は表に貼りだしておいたのか?」


「いえ、噂程度に流れれば十分かと思いまして、まだ出してませんね。今までのスキルでも十分に稼げますしね」


「ならいい、ところで今日の朝ご飯は随分と豪華だな」


 パンと肉と魚、チーズ付とは破格の朝食だ。スキルを手に入れる前は一つのパンを二人で分けていたりもした。


「この前の役場からの依頼でかなり儲けましたからね。お兄ちゃんだって嬉しいでしょう?」


「そうだな、人間らしい食事というのは良いものだ」


「私はお兄ちゃんとパンを分けていた頃も嫌いじゃないですけどね……」


「え?」


「なんでもないです! さあご飯を食べましょう!」


 夢の話をするべきか少し悩んだ。そこをシャーリーは見逃さなかった。


「お兄ちゃん、何か隠してますね?」


「いや、隠してるってほどのことは……」


?」


 圧に負けて家屋の制作が可能になったことを伝えた。家屋などというものが作れるのは結構便利なのかもしれないが、何が出来るか分からないものをいきなり試すわけにも行かない。もしかしたら土壁の土蔵のような物が出来る可能性だってあるわけだ。


「では作ってみましょう!」


「庭にか? 何が出来るか分かんないぞ?」


「ものは試しですよ、それに多分ですけどスキルが進化したのは昨日食料保管庫を作るのにスキルを使ったからだと思いますよ。ならガンガン使った方が進化が早くなっていいじゃないですか?」


 使えば使うほど進化する……本当にそんなものなのだろうか? スキルの解説など無かったのでさっぱり分からない、こういう時、前例の無いものというのは不便だ。


「とりあえず朝ご飯食べようぜ、何が出来るか分からないスキルより、今美味しそうに完成している朝ご飯を食べる方が先だろ」


 俺の言葉に朝食を褒められたのが嬉しかったのかにんまりするシャーリー、俺はパンをかじって溶けるチーズを噛みしめると、何時ぶりになるだろうか? 昔両親がいて生活に困っていなかった頃の朝食を思い出した。


「美味いな……」


「私が心を込めて作りましたからね!」


 自画自賛という言葉が浮かんだが、確かに美味しい豪奢な朝食なのでそれを威張る権利くらいはあるだろう。そう思ってシャーリーに『美味しいよ、ありがとう』と言っておいた。シャーリーは頬を赤らめて下を向いたが不愉快になったわけではないようなので構わない。


「ごちそうさま」


「あ、お兄ちゃん! デザートのフルーツもありますよ!」


 そう言ってシャーリーは葡萄を持ってきた。プチプチとちぎりながら二人で一房を食べていく。上等なものなのだろう、強い甘みを持った葡萄だった。


「随分と奮発したんだな」


「お兄ちゃんのおかげですよ、これでも感謝しているんですよ?」


 まったく、こういう時は直球で感情を出すシャーリーには敵わないな。俺が少し恥ずかしく思えるようなことを平気で言ってくる、感情を隠さない妹には俺も勝てない。


「しかし、家を作れるねえ……需要が無さそうだな」


「ですねえ、家を持っている人が新規で作りたいなんて思わないでしょうし」


「新規で家を建てる人をターゲットにするか?」


「そうですね、息子娘の独り立ちのついでに家を建てるって人には刺さりそうですね」


「同居しないのかねえ……」


「何言ってるんですかお兄ちゃん、両親と一緒に暮らしてない私たちが言っても説得力の欠片も無いでしょうに」


「それもそうだな」


 実際両親から仕送りと手紙が送られてくるのが生存報告になっている。二人とも定住していないのでこちらから手紙を送ることは出来ない。そんな兄妹が同居問題について語るなんて微塵も説得力が無い。


「二人とも元気でやってんのかなあ……」


「元気に決まってるじゃないですか! あの二人なんて魔獣に襲われてもソロで倒せるような人ですよ?」


 両親ともに腕っ節で稼いでいるからな。スキルは父親が子守、母親が料理という戦闘向きではないものなのに努力だけで強くなった剛の者だ。父親に努力の大切さを説かれたことがあるが、実際に圧倒的な強さを持っていたので説得力だけは確かにあった。


「お兄ちゃん、私は土地をもっている人に子供や親の別宅を建てられるのをアピールして売り込もうと思うので広告を作りますね」


「ああ、それはシャーリーに任せるよ」


 妹の方が圧倒的に絵が上手いからな。読み書きくらいは俺でもできるが、デザインセンスは妹が吸収してしまったのかてんでダメだ。得意なことは得意な人に任せればいい。


 しかし、そんなに依頼が来るかなあ……そこは不安が拭えなかった。

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